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第5話-①
『間もなく左側のドアが開きます。ご注意ください』
到着を知らせる車内のアナウンス。エアコンが効いた車内から駅の構内へ降り立つと、暑さでじわりと汗が滲んだ。手で影を作り空を見上げる。今日も青く晴れ渡り、入道雲の隙間から眩しい太陽が降り注ぐ。
改札を出て街中を進むと、小さな花屋が目に入った。こんな所にお花屋さんがあったのか。店頭に並ぶ色とりどりの花。それらを眺め「よし」と小さく呟くと店内に足を運んだ。
「すみません、このガーベラを見繕ってもらえますか?」
「こちらですね、承知しました。プレゼント用でしょうか」
店員のその言葉に頬をほんのりと染め、微笑んで返答した。
「はい」
ラッピング中、レジ横に貼られた手書きの張り紙に目を向けた。『今週の花言葉特集』見出しには可愛らしい文字でそう書いてあった。ピックアップされていたのは、ちょうど今ラッピングをしているガーベラの花言葉だ。
手際よく、綺麗に包装されていくガーベラを穏やかな眼差しで見つめた。
「ガーベラの花言葉、素敵ですよね」
その言葉に店員が笑顔で返す。
「ええ。ガーベラはポジティブな花言葉ばかりですので、様々なお相手や場面で贈ることができるんです。花言葉の通り、見た目もパッと咲いていて明るく元気が出ますよね。花言葉、お詳しいんですか?」
「あ、いえ。他の花言葉は正直ほとんど知らないんですけど、ガーベラの花言葉は最近知って、今度会いに行く時買おうかなって思っていたんです」
「まぁ、それじゃあお兄さん、今からお会いする方はひょっとして……?」
店員の問いかけに思わず照れ、はにかんだ笑顔が頬から零れる。会計を済ませると丁寧に包まれたガーベラの花束を受け取り、再び真夏の太陽が照りつける街中へと足を運んだ。
高層ビルが立ち並ぶ大通り。そこから数本曲がった先には公園がある。大きな噴水、ベンチ、整えられた草木と花壇。帽子を被った小さな子供がそこらじゅうを駆け回る。その姿が微笑ましくて、思わず目を細めて眺めていた。
そろそろ向かおう。そう思い、止めていた足を再び進める。
辿り着いた先は7階建ての清潔感漂う白い建物。自動ドアをくぐると、鼻の奥が少しツンとするような独特な匂いが鼻孔をかすめる。
「こんにちは」
「あら、幸太郎くん。こんにちは」
「505号室お願いします」
そう言って記入済みの用紙を渡すと、引き換えに許可証を受け取った。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
花瓶に水を注ぎ入れながら幸太郎は話した。
「今日も暑いねぇ。東京の気温40度だってさ。さっきニュースで言ってたよ。それに比べてここはいいよね。クーラーが効いててすごく快適。羨ましいよまったく」
ラッピングを解き、幸太郎は一本ずつ見栄えを気にしながら花瓶に花を挿していく。
「よっと」
床頭台へ移動させ、中々の出来だと満足げに笑みを浮かべると、幸太郎は両手を花へ向け自慢するように言った。
「はい、完成!今日は新しいお花を持って来たんだよ!」
まるで太陽のように咲き誇るガーベラ。日差しが当たるとガーベラは一層明るく映えた。ベッドにそっと腰を下ろし、幸太郎は微笑みを浮かべながら花を眺めた。
「やっぱりお花があると部屋の雰囲気も変わるね」
視線をベッドに移し、幸太郎は眠る彼に言葉をかける。
「ね、将太」
昏々と眠り続ける青年。ベッドのすぐ側に立て掛けれらた点滴スタンドには輸液パックが下げられている。そこに書かれた「武藤将太」という名前。
彼は、幸太郎の恋人は、事故があった日を境に眠り続けていた。
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