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第6話-①

「お願いします」 「はい、今日の面会は16時までね」 「分かりました」  そう言って用紙と引き換えに許可証を受け取ると、幸太郎は慣れた足取りで病室へ向かった。 「あの子、また来たんだ」  幸太郎の姿に気付き、同僚の看護師が声をかけて来た。 「またっていうか、毎日来てるわよ」 「えっ、毎日?」 「そう、毎日。面会許可が下りてからずっと」 「へぇそうなんだ」  記入済みの面会受付票を受け取り、看護師はファイルを取り出した。パラパラとめくるとそこには同じ名前が何枚も綴られている。入院患者名に書かれた武藤将太という名前。看護師はその名前を見つめて言った。 「そういえば知ってる?入院している彼の親御さん、一度もお見舞いに来ていないんだって。来院されても支払いだけして帰ってるみたいよ。薄情な親よね。息子さんがこんな状態になってるっていうのに、様子を見に行くこともしないなんて。何とも思わないのかしら」  綴ったファイルを元に戻し、看護師は続けて言った。 「それに比べてあの子はすごく献身的よね。毎日お見舞いに来てくれるなんてさ」 「そうね。それに、事故当時危険な状態だった彼に輸血を申し出たのもあの子だったらしいわ」 「えっ、そうだったの!?」 「えぇ。きっとあの子にとって彼は、それだけ大切な存在なのよ」  505号室。今日も将太はその病室で眠っている。体から垂れさがる何本もの管。その先端はベッドサイドに設置された機械に繋がれていた。四角いモニターに流れる波打つ線。静かな部屋に、その機械音だけが反響する。  幸太郎は椅子を側に寄せ、腰を下ろすと眠る将太の顔を眺めた。 「将太、あのね……」  顔を上げ、幸太郎は明るい笑顔を乗せて溌剌とした声で口を開いた。 「この間言ってた猫カフェに新しい子が入ったんだって!写真見たらすっごく可愛かったよ!もう写真からして毛並みのふわふわ感が伝わってきてさ、つぶらな瞳も可愛らしくて抱っこしたら悶えちゃうの間違いナシだよ!絶対行こうね!あと水族館なんだけど、何とあそこには日本一のサイズを誇るシャチがいるらしいよ!これは見に行かないと損だよね!あっプラネタリウムも行こうって言ってたよね。僕初めてだからすっごく楽しみ!」  大きく身振り手振りを使って楽しそうに話しかける。将太から反応があるわけではない。それでも、幸太郎は変わらぬ笑顔で話し続けた。 「そのあとはバッティングセンターで体を動かして……あっ!あとゲーセン!スコアリベンジしたいゲームがあるって言ってたよね。何のゲームだったっけ。あ、そうそう太鼓のやつだ!将太って意外とリズム系のゲーム上手いよね。え?“意外”は余計だって?アハハ!ごめんごめん!」  幸太郎が将太のお見舞いを続けてしばらく経つ。思えば、あの事故の日から不思議な出来事は起きていた。お見舞いに行こうと決意して、最初に訪れた日もそうだった。

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