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第7話-②

 茶色い外装の、古風なお城のような建物。幸太郎は立派にそびえ立つその建物を見上げた。地図アプリが示した目的地、T大学だ。横を向くと、同じく茶色いレンガで積み上げられた歴史を感じる立派な門がそびえ立っている。  夢で見たT大学とそっくりだ。いや、そっくりと言うべきか。幸太郎は手を伸ばし、その門に触れた。夢の中では触れることが出来なかった。しかしどう見ても同じだ。  そびえ立つ建物に視線を向け、幸太郎は意を決し、足を踏み入れた。  教室、広間、講堂、エントランス、売店。どこの角を曲がり、何階にどの教室があるのか、どの廊下を渡れば辿り着くのか、どう向かえばそこへ行けるのか。それらが全て分かる。知っている。この景色を何度見ただろうか。造りが全く同じなのだ。大学内の至る場所が、夢で見た景色と全く同じだったのだ。  建物だけではない。病院で出会った教授と呼ばれていた初老の男性。あの人は、夢の中で教壇に立っていた。将太が大学で受けていた授業、その授業の担当をしていた先生だ。  こんなことがあり得るのだろうか。幸太郎はT大学の生徒ではない。今まで来たこともなかった。知らないはずなのだ。なのに、知らないはずの景色、会ったこともない人、それら全てが夢で見たものと一致している。これは単なる偶然だろうか。そうだとしても、これほどまで同じだなんてあり得るのだろうか。益々疑念が沸き起こる。自分が見てきた夢。あの夢の数々は一体何なのだ。  西の空に沈み始めた夕日が辺りを眩しく照らし出す。ジリジリと、盛んに鳴り続けるセミの声が幸太郎の耳に響き渡る。  夏の暑さが続く外気温。しかし、幸太郎の背中には冷や汗が滲んでいた。繰り返し起こる不可思議な出来事。この形容しがたい現象に不気味さを抱き、幸太郎はT大学を後にした。

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