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第8話-①

「あの、すみません」  翌日、その日の面会を済ませた幸太郎は総合受付の女性に声をかけた。毎日顔を出しているため、受付の女性たちにも幸太郎の顔はよく知られている。 「看護師の木下さんいますか?」 「えぇ、ちょっと待ってね」  そう言ってにこやかに返事をすると、女性は奥の部屋へと足を運んだ。 「木下さん、今幸太郎くんがカウンターにいるんだけど、顔出せそう?木下さんに用があるみたい」  木下は快く了承の返答をすると、手にしていた資料を棚に戻し受付へ顔を出した。そこには神妙な面持ちの幸太郎がいた。相談事だろうか。木下はいつものように落ち着いた声で話しかけた。 「幸太郎くんどうしたの?」 「実は、少しお話したいことがあって」  そう言うと、幸太郎はポケットから折り畳んだ小さなメモを取り出し、木下に差し出した。 「これ、僕の連絡先です。今日お仕事終わってから少しお時間いただけませんか?」  木下の背後が一瞬ざわつく。仕事をしている同僚たちの視線が、一斉に自分へ向けられたことを木下は悟った。後ろの反応を気にすることなく、木下は幸太郎からメモを受け取ると「分かったわ、後で連絡するわね」そう言葉を返した。  幸太郎は会釈をすると踵を返し病院を後にした。その後ろ姿を見送っていると、同僚が一斉に言葉を飛ばしてきた。 「木下さん、これはひょっとして!?」 「OKしちゃうの!?」 「年下の男の子も可愛いけど、そこのところはどうなの!?」  ああ、やっぱり。思った通り同僚たちは今のやり取りだけを見て勘違いをしたらしい。彼とはそういう仲ではないと伝えたが、同僚たちは揃って期待に花を咲かせているようだ。「いやいや、相手はそうじゃないかもよ!?」などと言葉を重ねてくる。幸太郎がそういう意図で連絡先を渡したわけではないのは明らかだ。否定をするが、同僚はこういう手の話が大好きなのだ。高まった同僚の熱を鎮めるにはどう返すのがベストだろうか。 「はいはい。そこまでにして、そろそろ手を動かしてね」  師長の声だ。同僚の熱がようやく収まった。助かった。木下は棚に戻した資料を取りに再び奥へと足を運んだ。

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