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第8話-②

 待ち合わせ場所は屋外だった。更衣室から見える外の景色はすっかり夜になっていた。空には朧げな月が浮かび、街灯の明かりが夜道を点々と照らしている。  待ち合わせ場所はどこかカフェにでもと思っていたが、幸太郎に連絡した際、誰かに聞かれるのを避けたい様子が伺えた。少し考え、港近くの公園はどうかと提案してみた。そこなら賑やかな街並みから少し外れており、夜も人通りはそう多くはない。すると「そこでお願いします。」と幸太郎から返事が返ってきた。  ただ、カップルの散歩デートコースになることが時々ある。待ち合わせ場所がそこだと同僚に知られるとまた質問攻めがヒートアップしそうだ。絶対に言わないでおこう。  着替えを済ませ、ロッカーをぱたりと締めたその時だ。背後から同僚の声がした。 「これから行くんでしょ?いよいよね」  口元に含み笑いを浮かべている同僚の顔があった。 「だーかーら、違うんだってば」  苦笑いを浮かべたあと、軽く溜め息を吐くと真面目な表情で木下は続けて返した。 「きっと、悩み相談なんだと思う。幸太郎くん、いつも明るくて元気で他の患者さんにも親切でいい子なんだけど、頑張り過ぎるところあるじゃない。ほら、入院している彼のお見舞い、何があっても来てたじゃない」 「あぁそういえば、台風の時はびっくりしたっけ。全身びしょびしょだったわよね、彼」 「一生懸命なのはいいんだけど、見てて少し危なっかしく思えるのよね。それに彼、普段元気な姿を見せているけど、あの事故のこと自分のせいだって、この前自分を責めてたのよ」 「え、何で?だってあの事故は……」 「そう、幸太郎くんが責任を感じることはない。彼だって事故の被害者だもの。でも本人は納得できないのよ。あの時自分がこうしていれば、ああしていればって、責任を自分自身に向けてしまう。幸太郎くんは多分そういう子なんだと思う」  木下は顔を上げ、同僚に向けて言った。 「だから、一人で抱え込んでしまわないように捌け口を作ってあげたいなって。そう思って、この間私でよければ何でも相談してって伝えたの。だから今日、私はその捌け口役ってわけ」  同僚は肩をすくめて降参したように笑った。 「木下ちゃんは本当にお人好しというか何というか。毎日患者や先生の不平不満や愚痴を聞いてるのに、そういうところホント凄いよ。でもほどほどにね。あんまり請け負い過ぎると木下ちゃんがしんどくなっちゃうでしょ」 「平気平気。私は私でちゃんと息抜きしてるし、萌えの補給させてもらってるから」  不敵な笑みを頬に浮かべる木下。同僚は首を傾げて聞き返す。 「萌え……?」 「あ、やばっ。もうこんな時間!じゃあ私行くね」  壁掛け時計を見ると慌ててショルダーバックを肩にかけ直し、木下は急ぎ足で更衣室を出て行った。

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