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第9話-④

 夏の日差しが病室を照らし、窓際に立つ幸太郎の背中に降り注ぐ。見下ろす幸太郎の姿。くっきりと象られたその影が将太の顔へ伸びている。花瓶に挿したガーベラは床頭台の上で静かに咲いていた。  開いた手のひらをゆっくりと握り締め、幸太郎は実体のある自分の体の感覚を確かめた。  体が透け始めたということは、自分自身も夢の中へ行ける時間が限られてきたということだろうか。だとしたら、いよいよ時間がない。成仏だなんて咄嗟の口実でしかなかった。なのに、本当に透け始めるなんて。  重苦しい吐息が漏れる。幸太郎は額に滲んだ汗を拭い、ベッドに寄せた椅子に腰を下ろした。ボディバックからベルベットの小箱を取り出し、ゆっくりと蓋を開けた。艶のある銀色の指輪が顔を出す。将太のために用意した愛の証。そっと手に取り目の前にかざすと、指輪はきらりと反射して眩い光を放った。  将太待ってて。今度こそ、必ず――。  両手で握り締め、幸太郎は祈るように瞳を閉じた。

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