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最終話-①

 暗闇が永遠と広がる。上も下も、右も左も判別がつかない。感じるのは浮遊感と、辺りに散らばってゆっくりと流れる、薄く脆いガラスのような破片。うすぼんやりと、白く淡い光を纏い、将太とともに宙を漂う。それらは小さな音を立てて次々と割れていった。  自分は誰で、ここは何処なのか。何をしていたのだろう。思考が巡らない。そんな頭でここは暗い場所だなと、将太はぼんやり思った。けれど、すぐに分からなくなった。「くらい」という言葉の意味が。  側に流れてきたガラスが目に映る。指先で触れると、みるみる亀裂が入りあっという間に砕け散っていった。溢れてくる涙。頬を伝って流れた涙はガラス片とともに宙を漂う。次々と流れ出る雫。手を伸ばし指先で触れてみるも、将太には、もはやそれが何なのかさえ分からなくなっていた。もう何も考えられない。思考が、段々と停止していく。  頼りなく伸ばされた左手をぼんやりと眺めていると、真っ暗闇の中で一瞬何かがきらめいた。薬指の指輪に光が反射する。瞳に映った一筋の光。遠くから何かが聞こえてくる。繰り返すその小さな音は少しずつ、少しずつ近付いてくる。  次第にはっきりと聞こえてくる。これは、声だ。誰かが、何かを呼んでいる声。何故だろう、その声がとても懐かしくて心地よくて、体の奥に優しく響いていく。沸々と胸の中に小さな灯火が宿っていく。この声を自分は知っている。 「将太!」  暗闇の中に大きな光が差し込んだ。辺り一面が一気に照らされていく。それはまるでさんさんと光り輝く太陽の明かり。散りばめられたガラス片が、次々と反射して強い光を放っていく。降り注ぐ眩しい光が将太の体全身を照らし出した。  闇に包まれていた瞳に光が宿る。そこに映し出されたのは、めいっぱい両手を差し出す彼の姿だった。光とともに将太の元へ向かって舞い降りてくる。ふわりと揺れる外跳ねの茶色い髪。ぱっちりと開いた真ん丸の瞳。太陽のように明るく眩しい笑顔。重なり合った二人の手と手。薬指の指輪が一層強く輝いた。  あぁ、知っている、彼のことを。誰よりも何よりも、大切で、かけがえのない大好きな恋人。 「こ……た、ろ……」  幸太郎はニッと歯を見せて笑いかけた。 「えへへ!つかまえた!」  胸の奥から熱いものが込み上げてくる。幸太郎を抱き締める手に力が入った。それに応えるように、幸太郎は背中に手を回し、将太の体を優しく包み込んだ。将太の瞳から大粒の涙が次々と零れ落ちる。とめどなく溢れる涙は何度も何度も将太の頬を濡らしていった。 「言ったでしょ、必ず助けるって」  暖かい日差しのような、優しい幸太郎の声が響き渡る。 「帰ろう、将太。僕たちの本当の居場所へ」  次第に二人の体が光に包まれていく。それはまるで、木漏れ日のように暖かく柔らかな光だった。幸太郎はゆっくりと瞳を閉じて信じた。これはきっと、未来へと繋がる希望の光だと。

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