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Liquidation 3-4

 発砲音の後しばしの静寂が流れる。ジェイクはもちろん、サムも、そしてビルも、何事も起こらずに時が過ぎた。 「……空砲?」  ジェイクは周りを見渡すも、近くに薬きょうは落ちていない。 「どうして……?」  ジェイクはビルを見上げるが、彼は何も話そうとしない。  ジェイクの問いに答えたのはサムだった。 「言っただろう、ジェイク。ビルは君を殺さないって。そうだろう、ビル?」  ビルからの返答はない。 「まあいいや。これで誰も傷つかなかった。君の良心に感謝するよ、ビル」 「……なあ、サミュエル」  ビルはサムに何かを手渡しながら続けた。 「僕はいつから間違ってしまったのだろうか……」  サムはビルを通り越し、ジェイクの元へ(ひざまず)く。彼が手にしていたのはジェイクの手錠の鍵だった。 「間違ってなどいないさ。君はいつだって自分の意志を貫いていた。ただそれだけだよ」 「そういう君はどうなんだい、サミュエル。君は自分を正しい人間だと思えるか?」 「僕は僕だよ。いつも間違えてばかりだ。何もかもうまくいった試しがない。結果が出ていたとしても、それは僕の手柄だと思っていないよ」 「そうなのか?」 「僕ひとりの手柄じゃない。僕らの手柄だ」 「……サミュエル。僕たちはこれからどうなると思う?」 「どうだろう。少なくとも、バディを組んでいた頃には戻れないだろうな」  手錠を外し終えたサムが自らのジャケットを羽織らせてくれる。嫌でたまらなかったはずの甘いトワレの香りが、ジェイクの心を落ち着かせた。  ジェイクは自然と安堵の息を吐く。大きな危害は加えられなかったものの、いつ命を取られてもおかしくなかった。無意識のうちに、身体がこわばっていたらしい。 「大丈夫かい、ジェイク」  すぐには答えられなかった。するとサムは座りこんだままのジェイクを優しく抱擁した。このまま眠ってしまいたいほど心が安らいだ。 「ビル、この場所は匿名で通報する。まだ君に正義の心が残っているのならば、あとはわかるよな?」 「……心遣いありがとう、サミュエル」 「礼には及ばないよ〝ビリー〟」  かつての愛称でビルを呼ぶと、サムは振り返ることなくジェイクの肩に手を置き、立ち去ろうとする。  ――この人は誰にも助けを求めることができなかったのか。  廃墟にただ独りでうなだれているビルを見ていられなくて、ジェイクはサムに促されるまま、彼の元を去った。

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