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Only just a little 1

 鍵のかかっていない密室ほどタチの悪いものはない。ジェイクはふてくされた面もちで、嫌みなほどふかふかのベッドの上でため息を吐いた。ゲストルームに通されたが、とても安らげる状況ではない。  連続爆弾魔事件から三日後。一度はビルに捕らわれたジェイクだがなぜか自由の身にはほど遠く、再び囚われの身となってしまった。  すべての原因は言うまでもなくサムだ。かすり傷程度だったジェイクはその日のうちに自宅に帰り、ゆっくりと休む予定だったが、その望みは叶わなかった。  病院から出たジェイクは自宅へ戻り、まずはシャワーでも浴びようかと準備をしていた。しかし突然来訪したサムに連れ去られ、彼の年収に見合った――むしろ豪奢な一軒家になかば軟禁状態にされてしまったのだ。  逃げ出すことはできなくもないが、サムに貴重品やバッジを人質に取られ、彼の許可なく抜け出すことは容易ではなかった。  今は午後二時過ぎ。疲れが溜まっていたのか、サムの家に来てから怠惰(たいだ)な生活を送っている。 「やあ、ジェイク。体調はどうかな?」  ジェイクを連れこんだ犯人、もとい上司兼相棒であるサムが朗らかな笑みを浮かべてゲストルームに入ってくる。 「最悪以外にどんな言葉を期待しているんですか?」 「君の声を聞けるならどんな言葉でも僕は嬉しいよ」  いつもならばキザにウインクのひとつでも飛ばすはずのサムだが、この言葉には平時にない安堵感がこもっていた。  今回の件で心を痛めているのは自分よりも確実にサムの方だろう。ジェイクがサムの命令を無視して単独行動に走ったせいもあるが、もともとはサムの過去の因縁が原因である。殊勝(しゅしょう)な態度はそのせいなのだろうか。  ともあれ、もう三日もサムの家にいるのだ。そろそろ自宅が恋しくなってくる。サムからミネラルウォーターを受け取りながら、ジェイクは深いため息を吐いた。 「いったいあんたは俺に何を求めているんですか?」 「そりゃあ、僕の愛に応えてもらうことかな」 「そういうことじゃなくて……っ」 「わかってるよ、ジェイク。これが僕の独りよがりの行為だってことは。ただのマスターベーションさ。でも僕のもとに戻ってきた実感をしばらく味わいたいんだ」 「……しばらくって具体的にいつまでです? 俺の休み事情とか大丈夫なんですか?」 「少なくともあと十日くらいは。君は病休扱いになっているから安心して休んでくれ」 「あなたとひとつ屋根の下で安心なんかできるか」 「鎖に繋がないだけでもマシだと思ってくれよ」  サムはハハっと笑い、ジェイクが座るベッドの傍らにあるキャビネットの引き出しを開ける。中にはいわゆる〝大人のおもちゃ〟が仕舞いこまれていた。 「……冗談だろ?」 「使ったことは一度もないのかい?」 「俺にそういう趣味ないんで」 「安心して。君相手にまだ使うつもりはないよ」 「まだ? 無理強いされた相手を愛するようになると、本気で思っているんですか?」 「ああ……。すまない、そういうつもりじゃなかったんだ」 「これでますますあなたへの信頼度は下がりました」 「……どうしたら君は僕を愛してくれるの?」 「それを相手に聞いてしまう時点で、あなたは間違っていることに早く気づくべきです」  ジェイクは苛立ちをこめて引き出しを元に戻し、サムに背を向けながらミネラルウォーターを口にする。暗に出て行ってくれ、と示したはずなのに、サムは棒立ちのまま動こうとしなかった。 「何です? まだ何か用でも?」 「いや、その……」  口淀んだサムはジェイクが使っているデスクの上にある雑誌に目を留めた。 「そうだ。弟くん、頑張ってるみたいだね」 「何でそれを……って聞くのもやぶさかですね。どうせ俺の家庭事情なんて筒抜けなんでしょう?」 「まあ、そうだけど」 「この雑誌も知った上で用意しておいたんですよね? まったく。嫌味なほどに用意周到ですね」

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