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第47話
(アルザイルside)
俺は突然、勇者としてこのアルザイル王国に召喚された。最初は訳が分からずにパニックになってたけど、あと二人同じ境遇の人が居たのと、説明をされて状況を理解することで次第に落ち着いてきた。ここは俗に言う異世界らしい。
今、日本では異世界系の漫画やアニメが流行ってる。俺でもいくつかは知ってるけど、あくまで架空の世界だと思ってた。まさか異世界召喚なんて事が現実に起きるとは思わなかった。
俺の他にあと二人召喚されてた。一人は高峰 蒼太、双剣使いと言ってた。もう一人は風城 双葉、魔術師だと言ってた。
高峰くんはまぁ見たままって感じだけど、風城くんはちょっと不思議だった。
風城くんは最初からこの状況を理解してるように見えた。むしろ、この状況を楽しんでる気がした。
勇者としてこの国を守ってくれと頼まれたとき、俺に出来ることならと了承したけど、風城くんはそれを断った。そのせいで彼は捕まってしまった。ただそれさえ余裕そうに見えた。
彼は一体何を考えてるのか……
次の日の朝、彼が逃げ出したと聞こえてきた。
『陛下、如何いたしましょう』
『構わん。捨て置け』
高峰くんと一緒に朝食を摂っていると微かにそう聞こえてくる。多分王室での会話。
これは俺のスキル『超感覚』。
聴覚や視覚が強化されるスキルらしい。
急に視力が良くなって遠くのものが見えたり、離れた場所の声が聞こえたり。
一晩で多少は慣れたとはいえ、見えなかったものが見えたり、聞こえない音が聞こえたりするのは正直気持ち悪い。上手く使いこなせれば、使いたい時だけ使えるようになるらしいけど、俺はまだ全然コントロール出来ない。
「どうした?変な顔して」
そう高峰くんが聞いてくる。
「風城くんが逃げ出したらしい」
「ふーん」
「ふーんって気にならないのか?」
そう言うと、高峰くんが食べる手を止めてじっと見てくる。
「あんたお人好しだな」
そう言って高峰くんはまた朝食を食べ始める。
「あいつは自分から出てったんだろ?そんな奴気にしたって仕方ないだろ」
「それはそうだけど……」
「なら何か?あいつを探しにでも行くか?」
そう言われて、俺は何も言えなくて黙ってしまう。
「ほらみろ。気にするだけ無駄なんだよ」
高峰くんはそう言って、朝食を食べ終えるとさっさと部屋を出ていってしまった。
確かに、俺に出来ることは何も無いか……
国王も風城くんの事を放っておくつもりらしい。自分たちが呼び出しておいて無責任な気もするけど……
でも彼が無事なら、いつかまた会えるだろう。その時は話が出来れば良いんだけどな。
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