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第84話

俺は今、レイスの後をつけていた。 宿でフレディさんって人から会いたいと伝言を受けたレイスは、俺を部屋まで送ると、早々に出ていった。 レイスが慌てて出向くくらい親しい相手。 こんなことはしない方が良いのは分かってるけど、気になって仕方がなかった。 宿の人が向かいの店って言ってた。 ………ここだよね? 俺は多分待ち合わせ場所だろう店の前に立って、それを見上げていた。 ………レイスが本当に女の人と会ってたらどうしよう。 って、いやいや、レイスが女の人と会ってたからって別にどうって事は無いんだけど。 レイスだって男だし、あれだけ格好いいんだから当然モテるだろうし、彼女くらい居たっておかしくない。 ………おかしくないんだけど、何なんだろうな、この気持ち。 そう思って、俺はため息をついた。 俺は沈んだ気持ちを振り払うように首を振ると、意を決して店の中に入った。 店に入って周りを見回す。どうやらここは民衆の食堂みたいだ。夕食時だからか、結構混んでる。俺はその中からレイスの姿を探した。 レイスを探して店の中をゆっくり進むと、奥の端にチラッと『赤』が見えた。 そっと近付くと、レイスが居た。 俺は少し離れたレイスの見える場所に座る。そこから様子を伺った。 レイスの向かいにはフードを被った人が座っていた。 フードで顔が見えないからどんな人かは分からない。でもかなり小柄だから多分女の人。 ここからは何を話してるのか分からないけど、レイスは時折笑顔を見せていた。 ……こんな盗み見るような真似して。 何やってんだろ、俺。 俺は小さくため息をつく。 ………戻ろう。 そう思って立ち上がると、人とぶつかった。その衝撃で倒れ込んでしまう。 その瞬間何かに引っ掻けたのか、ガシャンと大きな音が鳴った。 しまったと思ったときにはもう遅くて、レイスたちの方を見ると、その瞳はしっかり俺を捉えていた。 俺は慌ててその場から逃げようとした。 「カザシロ様!?」 逃げようとした瞬間、そう女の人の声が聞こえた。

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