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第105話
(レイスside)
「えっと、これはね。俺の故郷でのご飯食べる前の挨拶なんだ」
フタバがちょっと焦りながら、そう説明する。
「そうなのか」
ディルはそう言って納得する素振りを見せた。
その後俺をチラッと見てきて、俺はため息をついた。
フタバは召喚者だということを隠してるけど、世間知らずの所や普段の行動からボロが出てきている。
普段から自然としていた習慣をいきなり止めるのは難しい。意識してても、ふとした時に出てしまう。
さっきの食事前の挨拶も、フタバは完全に無意識だった。
この世界に食事前に挨拶をするって習慣はない。
ディルもその事を分かってるから、こっちを見てきたんだと思う。
しばらくすると、フタバが『ごちそうさま』と言ってフォークを置いた。
多分『ごちそうさま』っていうのは食後の挨拶なんだろう。
ディルも察してか、今度は何も言わなかった。
そんな事を考えてふとフタバの食器を見ると、料理が半分くらい残っていた。
「フタバ、もう食べないのか?」
「ちょっと量が多くて」
そう言ってフタバは申し訳なさそうに笑った。
「フタバは少食なんだな」
そうディルが言う。
「そんな事はないと思うけど……ごめん、残しちゃって」
そう言ってフタバがシュンとしてしまう。
そんなフタバにディルが笑い掛ける。
「気にすることはない」
そう言うディルにフタバは安心したように笑った。
夕食が終わると、俺はディルに話があると言ってフタバには一人で部屋に戻ってもらった。
俺たちもディルの執務室に移動した。
「リオ、頼む」
部屋に入ると、ディルがリオに頼む。
リオは頷くと、詠唱を唱えて魔法を発動させる。
「これで大丈夫です」
そう言ってリオが振り向く。
防音結界と遮音結界。
ディルがこの部屋で機密事項の話をする時にリオが使う結界。
話す内容が外部に漏れないようにするためだ。
結界を張り終えた事を確認すると、ディルが椅子に座る。
俺も向かいの椅子に座った。
ディルが脚を組んで息を吐く。
「じゃあ、聞かせてくれるか?」
そう言われて、俺は頷いた。
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