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第136話

(ディルside) 父に頭を下げて、俺は応接の間を出た。 その瞬間、大きなため息が漏れた。 「取り敢えずこれで、父上がフタバに無理に接触することはないな」 「ですがフタバさんが謁見を拒否した場合、陛下が動く可能性は?」 「そんな事をすればフタバが敵になる可能性がある事は分かっている筈だ。父上もそこまで無謀な事はしない」 ………しないと思う。 ただ不安要素はある。 「父上は動かないだろうが、ゲイムが動く可能性がある」 「…ゲイム様ですか。可能性はありますね」 『どうするおつもりですか?』とリオが聞いてくる。 そう聞かれても、今はこっちも動く事は出来ない。 「……フタバ次第だろうな。フタバが謁見に応じてくれれば対処の仕様もあるんだが」 「……そうですね」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ (リオーネside) 「陛下、宜しいのですか?」 ゲイムがそう聞いてくる。 「…何がだ?」 「アルザイルの勇者です。このまま放っておいて宜しいのですか?」 「放っておくも何も、その勇者の回りはあやつらが固めている。こちらが下手に手を出せば身を滅ぼしかねん」 「……しかし、このままにしておくのは」 「分かっている。とは言え、会うことが出来なければ判断の仕様もない」 人となりを見ての判断になるが、出来ればこちら側に取り入れたいものだな。 ディルハルトやレイス殿が傍に置きたがる程の人物。あのリオでさえ一目置いてるみたいだった。 「勇者の事もそうだが、アルザイルの動きも探る必要がある。至急アルザイルに密偵を送れ。アルザイル国王と他の勇者の動向を探れ!」 「畏まりした」 そう言ってゲイムは胸に手を当てて頭を下げると、早々に部屋を出ていった。 私は椅子の背凭れに凭れ掛かって息を吐いた。 ディルハルトが勇者の話をしていた時の事を思い出す。 ディルハルトは社交的で友人も多い。それでもあそこまで他人に焦れ込むのは珍しい。 ディルハルトの話ではレイス殿も勇者に焦れ込んでるらしい。 フタバ・カザシロ 二人の皇子を虜にする人物か……… いったいどんな人物なのやら。 そう思うと、自然と笑みが溢れた。

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