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第149話
朝、早めに目が覚めた俺は、寝ているレイスを起こさないようにそっと部屋を出た。
向かった先は厨房。
そっと中を覗くと、料理人の人たちが数人で料理をしていた。
「フタバ様?」
俺が厨房の中を覗いていると、後ろから声を掛けられて思わず体が跳ねた。
振り向くと、メイドさんが怪訝そうな表情をしている。
「こんなところでどうなされたのですか?」
「あ……えっと、ちょっと食べたいものがあって……」
疚しいことは無い筈なのに、覗いてたのを見つかった事で焦ってしまう。
「食べたいものって……」
「どうした?」
メイドさんが何か言い掛けた時、俺たちに気付いた料理長らしき人がそう言って厨房から出て来た。
「あ、料理長。実はフタバ様が食べたいものがあるそうなんですが」
メイドさんが料理長にそう説明をしてくれる。
……やっぱりこの人、料理長なんだ。
そう思って見ていると、料理長と目が合う。
一瞬睨まれたような気がして、俺は少し怯んでしまった。
料理長はそんな俺に気付いてか、ニッコリと笑った。
「それで、食べたいものとは何ですかな?」
「えっと………ホットケーキなんですけど……」
そう、実は昨日町でフサの実を買ってから、これをソースにしてホットケーキを食べたいと思っていた。
でもこの世界にホットケーキが存在してるのかが疑問だった。
「ホットケーキ……とは何ですか?」
と料理長が聞いてくる。
あ……やっぱり無いんだ。
「えっと………フライパンで作るケーキなんですけど……」
そう説明してみるけど、料理長は分からないみたいで首を傾げる。
……これは自分で作った方が早いかも。
「あの、自分で作るので厨房を少し貸して貰えないですか?」
「それは構わないですが……」
そう言って料理長は厨房の中に入れてくれた。
中に入って、メイドさんに必要な材料を聞かれて答えると、それを準備してくれた。
必要な材料は小麦粉、卵、砂糖、牛乳。それと無限収納からこっそり出したフサの実。
それらを台の上に置いた。
本当はふっくらさせるためにベーキングパウダーが欲しいところなんだけど、この世界ではベーキングパウダーって言っても分からないと思う。
何かで代用出来ると思うけど、実際俺もベーキングパウダーが何で出来てるのか知らないんだよね。
なんせ俺の世界にはホットケーキミックスっていうそのまま混ぜるだけで出来てしまう粉があるから。
でもこのまま材料を混ぜてもふっくらしないよね。
ふっくらしてないホットケーキなんて、ただの薄っぺらいパンだ。
悩んだ末、俺はある方法を思い付いた。
これなら大丈夫と思って、俺は作業に取りかかった。
まずはフサの実のソースを作っていく。
鍋に適当に千切って洗ったフサの実を入れて、そこに多めに砂糖を加える。
その鍋をコンロ………釜戸?に置いた。
温まって水分が出てきたら、適度に潰して少し煮詰めたらフサの実のソースの完成。
次にホットケーキの生地をを作っていく。
小麦粉と砂糖と牛乳をボールに入れて、卵を卵黄と卵白に分けて卵白を別のボールに入れた。
先に小麦粉と砂糖と牛乳と卵黄を入れた生地を混ぜる。
次に分けておいた卵白を泡立て器で泡立てる。
この世界の泡立て器は木の棒の先を裂いた、抹茶を点てる時に使う茶筅みたいな形をしている。
これでも十分泡立つからまったく問題ない。
卵白を泡立ててメレンゲを作ると、それをもう一つの生地に合わせて軽く混ぜればホットケーキの生地の完成。
考えた結果、ふわふわにするならスフレにすれば良いんじゃないかと思った。
俺はこの生地をバターを入れたフライパンで焼いていく。
ホットケーキを焼いていると、いつの間にか厨房に居た人たちが周りで見てるのに気付いた。
ホットケーキ自体が珍しいのか、作り方が珍しいのか……
でもここまでじっと見られてると作りにくいなぁ。
そう思って、俺は思わず苦笑が漏れた。
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