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第185話
(レイスside)
何かの物音で意識が浮上した。
まだはっきりしない意識の中で聞こえてきたのは歌だった。
微かに聞こえてくるその歌は、聞いたこともない曲調の歌だった。
音楽といえばもっぱら楽器での演奏が主流。
歌でいえば、オペラか歌劇くらいしかない。
でも聞こえてくる歌は、そのどちらとも違った。
その不思議なメロディーに誘われるように歌が聞こえる方を見ると、窓辺にフタバが居た。
フタバは空中で手を動かしなが時折楽しそうに笑みを浮かべてその歌を口ずさむ。
俺はその歌が何なのか気になってフタバに声を掛けた。
フタバは夢中になってたみたいで、声を掛けると驚いて声を出すのを口を押さえて堪えていた。
俺とフタバはディルとリオを起こさないように小声で話をした。
俺はフタバが歌っていた歌が気になって、その事を聞いてみた。
そうすると、フタバは顔を押さえて俯いてしまった。
その後、フタバが『忘れて』と呟いた。
どうやらフタバは歌についてはそれ以上触れて欲しくないみたいだった。
本当はもう少しフタバの歌を聞いてみたかったんだが、フタバが嫌がるなら仕方ない。
そう思って、俺は小さく息を吐いた。
「もう夜も遅い、そろそろ寝るぞ」
そう言うと、フタバは素直に頷いた。
俺たちはいつもの習慣で同じベッドに入る。
ここのベッドは宮殿のベッドとは違って狭いから自然とくっついて寝る。
しばらくごそごそと動いていたフタバも次第に動かなくなって眠ったのだと分かる。
フタバが寝たのを確認して俺も眠りについた。
陽が出る頃、目が覚めた。
隣を見るとフタバは居なくて、もう起きてるのかと思った。
そういえば、こういう時のフタバはだいたい早起きだったな。
その時のフタバの様子を思い出して自然と笑みが溢れた。
しばらくするとフタバはリオと一緒に部屋に戻ってきた。
「あ、レイス起きてる」
部屋に戻ってきたフタバは俺を見るなり、その言って駆け寄ってくる。
「どこかに行ってたのか?」
「リオさんと一緒にここの厨房を借りて朝食を作ってたんだ」
そう言って笑うフタバに、俺は『そうか』と返して頭に手を置いた。
しばらくして起きてきたディルと一緒にフタバとリオが作った朝食を食べる。
フタバはずっとダンジョンの話をリオにしていた。
朝食を食べ終えると、俺たちは準備をしてまずはギルドに向かった。
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