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第253話

(ディルside) 「フタバの様子はどうだ?」 そうリオに聞く。 「部屋に籠ったきりです。メイドの話では呼び掛けても反応がないそうです」 「………そうか」 レイスがここを出ていった。 誰にも何も告げず……フタバにすら。 フタバはレイスが居なくなったことを知って、落胆し部屋に籠ってしまった。 「しかしレイス様はなぜ急に…」 そう言うリオに、俺はレイスの置き手紙を渡した。 「………これは」 手紙の内容を呼んだリオが表情を曇らせる。 「これが本当だとすれば大変なことになります」 「…だからレイスが動いたんだろう」 「………この事をフタバさんに伝えなくて宜しいのですか?」 「レイスはフタバを巻き込むことを望んでいない。だから何も告げずにフタバの前から消えたんだ。それを俺たちが勝手には出来ない」 「………ですが」 リオの気持ちは良く分かる。 今のフタバの状態を見たら伝えた方が良いんじゃないかと思う。 でもこの事を知ったらフタバは必ずレイスを助けに行く。 レイスはそれを望んでいない。 レイスもそれが分かっているから、フタバに分からないように手紙だけを残した。 「アルザイルに諜報員を送れ。この事を徹底的に調べろ」 そう言いながら、俺は上着を羽織った。 「ディル様はどちらへ?」 「父上の所に行く。これは既に俺だけでは手に負えない問題だ。父上にも助言を頂く」 「畏まりました」 そう言ってリオは頭を下げた。 この事に俺が介入すれば、下手をすれば国同士の問題になる。 だからレイスは俺にも何も言わなかった。 ………こんな手紙だけ残して、全ての責を被るつもりか。 俺の立場を重んじての行動なのは解ってる。 でも……少しは頼って欲しかった。 そう思って、俺は手紙を握りしめた。

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