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第254話

レイスが居なくなった。 正確にはアルザイルに帰ってしまった。 レイスはアルザイルを避けてた。 それがどうして今になって。 ………なんで? そんな素振りなんて無かったのに… …なんで俺には何も言ってくれなかったんだろう。 手紙なんて、俺読めないよ。 レイスもそれを知ってる筈なのに…… 俺に直接言ったら止められると思ったから? それとも、俺には話す価値すらないと思った? 「………俺、嫌われたのかな」 そう言葉にすると、ツキンと胸が痛くなった。 「………俺、何かしたかな」 ツキンツキンと胸の痛みが増していく。 手に滴が落ちた。 ポタポタと次から次に落ちてくる。 「……俺、どうすれば良かったのかな」 そんな時、『キュー』と鳴き声がしてルディがすり寄ってきた。 「…ルディ」 俺はルディを抱き上げるとギュッと抱き締めた。 「……ルディ、レイス…居なくなっちゃった」 涙がポタポタと落ちてルディを濡らす。 それでもルディは動かずにいてくれた。 どれくらい経ったのか、部屋の扉がノックされた。 『フタバさん』 ………リオさんの声。 『フタバさん、大丈夫ですか?』 答える気力も、動く気力もない。 『フタバさん、入りますよ』 そう言ってリオさんが部屋に入ってきた。 俺は視線だけでリオさんを見ると、すぐに逸らした。 「フタバさん」 リオさんが目の前にしゃがむ。 「フタバさん」 リオさんがもう一度俺の名前を呼ぶ。 でも俺は答えようとは思わなかった。 胸にぽっかり穴が開いたみたい。 この感覚、まえにもあったな……… 確か両親が居なくなった時。 あの時と同じだ。 ………そうか、俺はレイスが特別だったんだ。 特別で大切で…… 俺はレイスが傍に居てくれたからこの世界が楽しいって思えたんだ。 ………今更こんな大事な事に気付くなんて。 また涙が溢れた。 今更気付いてももう遅いじゃないか。 もうレイスは居ないのに……

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