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第255話

(リオside) フタバさんは丸一日部屋から出てこなかった。 食事もまともに取っていなくて、メイドや従者が声を掛けても反応がない。 流石に心配になった私は、フタバさんの部屋を訪れた。 扉をノックしても返事がない。 私はフタバさんに声を掛けて、部屋の中に入った。 部屋の中は灯りも点けてなくて真っ暗だった。 どこからか『キュー』とルディの鳴き声がする。 私は蝋燭に灯りを点けた。 蝋燭を灯したことで部屋の中が見えてくる。 フタバさんを探すと、部屋の角でルディを抱えて踞っていた。 「フタバさん」 呼び掛けてもフタバさんからの反応はない。 もう一度呼んでみても、結果は同じだった。 フタバさんがこんな状態になってるのは、レイス様が居なくなったから。 かといって、ディル様に止められている以上、レイス様が居なくなった理由を私が勝手に話すわけにはいかない。 どうしたものかと考えていると、フタバさんが突然泣き出した。 「フタバさん!?」 呼び掛けても、フタバさんはただ泣くだけ。 声を殺すように、ルディに顔を埋める。 私はそんなフタバさんを見てるのが辛かった。 レイス様が居なくなった理由を知ってるのに、それを伝えられない。 私はただ見てるだけしか出来なかった。 その時、フタバさんの体がグラッと揺れた。 「フタバさん!?」 倒れそうになるフタバさんの体を慌てて支える。 見ると、フタバさんは意識を失ってるようだった。 私はフタバさんをベッドに運ぶと、急いでメイドや従者に指示を出す。 その時にディル様にも伝えるように頼んだ。 「リオ、フタバは!?」 フタバさんが倒れてからしばらく、連絡を受けたディル様が部屋に飛び込んできた。 「医師の診察では極度のストレスによる失神だそうです」 「………ストレス」 「医師は少し休ませれば回復するとは言っていたのですが……」 私とディル様は眠っているフタバさんに視線を向けた。 ストレスの原因は分かってる。 果たして休ませて回復するかどうか…… フタバさんがレイス様に特別な感情を向けていたのは知っていた。 常に気丈なフタバさんが、レイス様が居なくなっただけでここまで脆くなるなんて。 それ程までにフタバさんの中で、レイス様の存在は大きかった。 でもそれは無理のない話かもしれない。 突然別の世界から喚び出されて、一人で全く知らない場所に放り出されて、その中でレイス様が唯一頼れる存在だった。 そんなレイス様が突然居なくなって、フタバさんが堪えられる筈が無かった。 ……レイス様は私たちにフタバさんを託したけど、こうなる事は予想していなかったに違いない。 「……ディル様、やはりフタバさんには話した方が宜しいのでは?」 そう言うと、ディル様は黙ってしまう。 「このままでは、フタバさんが壊れてしまいます」 「そんな事は分かっている。でもまだ……」 そう言ってディル様が顔をしかめた。 ……そうか、ディル様も耐えているんだ。 「……申し訳ありません」 「……いや」 ディル様が首を振る。 「陛下は何と?」 私はディル様に陛下との謁見の結果を聞いた。 「様子見だそうだ。レイスの手紙だけではやはり証拠としては弱い。状況が把握出来ない以上、迂闊には手を出せないと仰っていた」 「……そうですか」 とりあえず今は状況を把握する必要がある。 早くこの状況を打開するために情報を集めなければ。 「ディル様、私も動く許可を頂けないでしょうか」 そう言うと、ディル様が驚いた顔をする。 「リオが動くのか?」 「はい、今の現状からあまり時間は掛けていられないと判断致しました」 そう言うと、ディル様が悩み出す。 一刻も早く、レイス様をフタバさんの元に還す。 悩んでたディル様が顔を上げる。 「分かった、許可する」 私はそう言うディル様に頭を下げた。

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