257 / 269
第255話
(リオside)
フタバさんは丸一日部屋から出てこなかった。
食事もまともに取っていなくて、メイドや従者が声を掛けても反応がない。
流石に心配になった私は、フタバさんの部屋を訪れた。
扉をノックしても返事がない。
私はフタバさんに声を掛けて、部屋の中に入った。
部屋の中は灯りも点けてなくて真っ暗だった。
どこからか『キュー』とルディの鳴き声がする。
私は蝋燭に灯りを点けた。
蝋燭を灯したことで部屋の中が見えてくる。
フタバさんを探すと、部屋の角でルディを抱えて踞っていた。
「フタバさん」
呼び掛けてもフタバさんからの反応はない。
もう一度呼んでみても、結果は同じだった。
フタバさんがこんな状態になってるのは、レイス様が居なくなったから。
かといって、ディル様に止められている以上、レイス様が居なくなった理由を私が勝手に話すわけにはいかない。
どうしたものかと考えていると、フタバさんが突然泣き出した。
「フタバさん!?」
呼び掛けても、フタバさんはただ泣くだけ。
声を殺すように、ルディに顔を埋める。
私はそんなフタバさんを見てるのが辛かった。
レイス様が居なくなった理由を知ってるのに、それを伝えられない。
私はただ見てるだけしか出来なかった。
その時、フタバさんの体がグラッと揺れた。
「フタバさん!?」
倒れそうになるフタバさんの体を慌てて支える。
見ると、フタバさんは意識を失ってるようだった。
私はフタバさんをベッドに運ぶと、急いでメイドや従者に指示を出す。
その時にディル様にも伝えるように頼んだ。
「リオ、フタバは!?」
フタバさんが倒れてからしばらく、連絡を受けたディル様が部屋に飛び込んできた。
「医師の診察では極度のストレスによる失神だそうです」
「………ストレス」
「医師は少し休ませれば回復するとは言っていたのですが……」
私とディル様は眠っているフタバさんに視線を向けた。
ストレスの原因は分かってる。
果たして休ませて回復するかどうか……
フタバさんがレイス様に特別な感情を向けていたのは知っていた。
常に気丈なフタバさんが、レイス様が居なくなっただけでここまで脆くなるなんて。
それ程までにフタバさんの中で、レイス様の存在は大きかった。
でもそれは無理のない話かもしれない。
突然別の世界から喚び出されて、一人で全く知らない場所に放り出されて、その中でレイス様が唯一頼れる存在だった。
そんなレイス様が突然居なくなって、フタバさんが堪えられる筈が無かった。
……レイス様は私たちにフタバさんを託したけど、こうなる事は予想していなかったに違いない。
「……ディル様、やはりフタバさんには話した方が宜しいのでは?」
そう言うと、ディル様は黙ってしまう。
「このままでは、フタバさんが壊れてしまいます」
「そんな事は分かっている。でもまだ……」
そう言ってディル様が顔をしかめた。
……そうか、ディル様も耐えているんだ。
「……申し訳ありません」
「……いや」
ディル様が首を振る。
「陛下は何と?」
私はディル様に陛下との謁見の結果を聞いた。
「様子見だそうだ。レイスの手紙だけではやはり証拠としては弱い。状況が把握出来ない以上、迂闊には手を出せないと仰っていた」
「……そうですか」
とりあえず今は状況を把握する必要がある。
早くこの状況を打開するために情報を集めなければ。
「ディル様、私も動く許可を頂けないでしょうか」
そう言うと、ディル様が驚いた顔をする。
「リオが動くのか?」
「はい、今の現状からあまり時間は掛けていられないと判断致しました」
そう言うと、ディル様が悩み出す。
一刻も早く、レイス様をフタバさんの元に還す。
悩んでたディル様が顔を上げる。
「分かった、許可する」
私はそう言うディル様に頭を下げた。
ともだちにシェアしよう!