258 / 269
第256話
(水上side)
俺は高峰と一緒に、いつも通り戦闘訓練をしていた。
「風城、あれから元気にしてるかな?」
高峰と剣を打ち合いながらそう呟く。
「あいつの事だから元気にしてるだろう」
そう言う高峰に、俺は微笑んだ。
「高峰も何だかんだで風城の事を気にしてるよね」
「ばっ!?そんなんじゃない!」
そう言って高峰は慌て出す。
「俺は別に風城の事なんか気にしてない!」
「またまたぁ」
少しからかう感じで言ったら、高峰に剣を弾かれた。
「また俺の勝ちだな」
そう言って高峰はニッと笑う。
「やっぱ高峰には敵わないね」
俺は『降参』と両手を上げた。
「基礎能力は勇者のお前の方が高いんだろ?」
「そうみたいだけど、やっぱ俺、こういうの苦手みたい」
俺は落ちた剣を拾いながらそう言った。
「勇者様方、少々お時間宜しいでしょうか」
一人の兵士がそう言ってきた。
俺と高峰は顔を見合わせた。
「本日よりこの方がお二人の指導をなさいます」
そう言う兵士の後ろから出てきたのは、俺たちの見覚えのある人物だった。
……え、あれって。
高峰も驚きを隠せないみたいだった。
「この方は、レイス・アルザイル第一皇子。お二方ともレイス殿下に指示に従い、しっかりと訓練に励むようにとの陛下からのお達しです」
そう言って兵士は去っていった。
「おいあんた、風城と一緒に居た奴だろ?なんであんたがここに居るんだ?風城はどうした?」
高峰がそうその人に聞く。
その人はスッと俺たちを見据えた。
「……そんな事はどうでも良い。早く剣を構えろ」
そう言ってその人は剣を抜いた。
・・・・・・・・・・・
「くそっ!!」
部屋に戻るなり、高峰が椅子を蹴り飛ばす。
「何なんだ、あいつは!?」
そう言ってひっくり返った椅子を踏みつけた。
その行動に、従者の人が怖がってしまっている。
俺は従者の人に部屋から出ていって貰った。
「高峰、落ち着いて」
俺は怒りが収まらない高峰に声を掛ける。
「お前はよく落ち着いてられるな!」
「俺だってムカついてるよ」
「だったらもっと態度に出せよ!」
そう言って高峰は、乱暴にソファに座った。
あの人は強かった。
俺と高峰の二人がかりでも、手も足も出なかった。
訓練中は散々な事を言われた。
『そんな実力で、よく勇者を名乗っているな』
『正直、期待はずれだ』
実際、その通りだから何も言い返せなかった。
あの後何度か風城の事を聞いてみたけど、結局あの人の口からは最後まで風城の名前は出てこなかった。
「風城はよくあんな奴と一緒に居れたな」
『俺なら無理』と高峰は言う。
「……そうだね」
前にあの人を見た時、あんな感じではなかったような気がする。
風城には優しい目を向けていた。
あんな、人を突き放すような冷たい目ではなかった。
それに、どうしていきなりここに現れたんだろう。
あの人が皇子ってどういう事だろう。
風城はこの事知ってるのかな。
結局、何も分からないままだ。
そう思って、俺はため息をついた。
ともだちにシェアしよう!