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第256話

(水上side) 俺は高峰と一緒に、いつも通り戦闘訓練をしていた。 「風城、あれから元気にしてるかな?」 高峰と剣を打ち合いながらそう呟く。 「あいつの事だから元気にしてるだろう」 そう言う高峰に、俺は微笑んだ。 「高峰も何だかんだで風城の事を気にしてるよね」 「ばっ!?そんなんじゃない!」 そう言って高峰は慌て出す。 「俺は別に風城の事なんか気にしてない!」 「またまたぁ」 少しからかう感じで言ったら、高峰に剣を弾かれた。 「また俺の勝ちだな」 そう言って高峰はニッと笑う。 「やっぱ高峰には敵わないね」 俺は『降参』と両手を上げた。 「基礎能力は勇者のお前の方が高いんだろ?」 「そうみたいだけど、やっぱ俺、こういうの苦手みたい」 俺は落ちた剣を拾いながらそう言った。 「勇者様方、少々お時間宜しいでしょうか」 一人の兵士がそう言ってきた。 俺と高峰は顔を見合わせた。 「本日よりこの方がお二人の指導をなさいます」 そう言う兵士の後ろから出てきたのは、俺たちの見覚えのある人物だった。 ……え、あれって。 高峰も驚きを隠せないみたいだった。 「この方は、レイス・アルザイル第一皇子。お二方ともレイス殿下に指示に従い、しっかりと訓練に励むようにとの陛下からのお達しです」 そう言って兵士は去っていった。 「おいあんた、風城と一緒に居た奴だろ?なんであんたがここに居るんだ?風城はどうした?」 高峰がそうその人に聞く。 その人はスッと俺たちを見据えた。 「……そんな事はどうでも良い。早く剣を構えろ」 そう言ってその人は剣を抜いた。 ・・・・・・・・・・・ 「くそっ!!」 部屋に戻るなり、高峰が椅子を蹴り飛ばす。 「何なんだ、あいつは!?」 そう言ってひっくり返った椅子を踏みつけた。 その行動に、従者の人が怖がってしまっている。 俺は従者の人に部屋から出ていって貰った。 「高峰、落ち着いて」 俺は怒りが収まらない高峰に声を掛ける。 「お前はよく落ち着いてられるな!」 「俺だってムカついてるよ」 「だったらもっと態度に出せよ!」 そう言って高峰は、乱暴にソファに座った。 あの人は強かった。 俺と高峰の二人がかりでも、手も足も出なかった。 訓練中は散々な事を言われた。 『そんな実力で、よく勇者を名乗っているな』 『正直、期待はずれだ』 実際、その通りだから何も言い返せなかった。 あの後何度か風城の事を聞いてみたけど、結局あの人の口からは最後まで風城の名前は出てこなかった。 「風城はよくあんな奴と一緒に居れたな」 『俺なら無理』と高峰は言う。 「……そうだね」 前にあの人を見た時、あんな感じではなかったような気がする。 風城には優しい目を向けていた。 あんな、人を突き放すような冷たい目ではなかった。 それに、どうしていきなりここに現れたんだろう。 あの人が皇子ってどういう事だろう。 風城はこの事知ってるのかな。 結局、何も分からないままだ。 そう思って、俺はため息をついた。

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