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第35話
(佐々木side)
どうしたら、緋桜くんを呼び戻せる?
緋桜くんの過去に何があったのかは分からない。
名前を呼んでも反応がない。
何か切っ掛けがあれば良いんだけど……
でも一歩間違えれば、逆に心を閉ざしかねない。
そんな事を思っていると、病室の外が騒がしくなった。
女の人が叫んでいる。
看護師の人か?
その声が段々近付いてくる。
近付いてくるにつれて、何を言ってるのか聞き取れるようになった。
『まだ動いちゃ駄目です!病室に戻ってください!」
そう女の人が叫んでいる。
………なんだ?誰か病室を脱け出したのか?
そう思っていると、ドアをガラッと開けられた。
「木崎さん!」
入ってきたのは、秋哉とそれを止めようとしている看護師の女の人だった。
「秋哉!?」
「緋桜は?」
「え?」
「緋桜は!?」
「あ、ここにいるけど……いまは……」
秋哉は緋桜くんの様子を聞かずに、スタスタと部屋に入ってきて緋桜くんの前にしゃがんだ。
「秋哉、今は…………」
「知ってる、聞いた」
秋哉は緋桜くんの顔を覗き込む。
それでも、一向に目が合ってる様子がない。
「……緋桜」
秋哉が優しく名前を呼ぶ。
「緋桜」
秋哉がもう一度名前を呼ぶと、緋桜くんの体がピクッと反応した。
「っ!」
反応があった!?
このまま秋哉が呼び続ければ、もしかしたら緋桜くんの意識が戻るかもしれない。
でもそう思った瞬間、緋桜くんの目からポロポロと涙が流れた。
「緋桜?どうした、何で泣いてる?」
泣き出した緋桜くんに秋哉が問い掛ける。
それでも緋桜くんは返事をすること無く泣き続けるだけだった。
「………ごめんなさい」
少し様子を見ていると、緋桜くんがそう呟いた。
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