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第38話
(佐々木side)
「すいません、お呼びだてしてしまって」
「いえ」
俺は医者に呼ばれて、別室に来ていた。
どうぞと促されて、俺は椅子に座る。
「話というのは?」
「中村 緋桜くんの事なんですが………」
「緋桜くん?」
あぁ、俺が保護者変わりになったからか。
「ええ、貴方は彼の過去に何があったのかご存じですか?」
「……いえ。正直、彼には数日前に会ったばかりなんですよ」
俺が『緋桜くんがどうかしたんですか』と聞くと、医者は深刻そうな顔をする。
「彼は、かなりのトラウマを抱えてますよね?」
「俺が分かる範囲では恐らく」
「触られるのも、嫌ってますね?」
「あぁ、それは…………」
俺は少し迷いながらも、緋桜くんが襲われたことを医者に話した。
「……そうですか、彼は親とも何か?」
「いや、それは分かりません」
俺がそう言うと、医者はうーんと考え込む。
「彼、カウンセリングを受けてみては?」
「カウンセリング?」
「ええ。中村さんを見ている限り、彼は対人恐怖症と接触恐怖症を患ってると思います。このままでは、日常生活にも支障をきたすかと」
『私は専門ではないので、詳しいことは言えませんが』と先生が言う。
「……それは本人に聞いてみないと」
緋桜くんはそういうのは嫌がりそうだ。
「そうですね。この事に関しては本人の意思が重要になってきますから。一度考えてみてください」
「分かりました」
俺はそう言って、取り敢えず聞いてみようと部屋を出た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(秋哉side)
どうしよう、緋桜と二人きりになってしまった。
前は平気だったのに好きだと自覚したら、どうしていいか分からない。
「………傷」
そうな事を考えていると、緋桜がボソッと呟いた。
「え?」
「傷、大丈夫なのか?」
緋桜はこっちを見ず、俯いたまま聞いてくる。
「あぁ、大丈夫だよ。傷自体は対したことないって」
「………そうか」
そう言うと、緋桜の顔が一瞬曇ったような気がした。
「緋桜?」
「……もう、あんなこと止めてくれ」
「あんなこと?」
「俺を庇って、怪我なんてするな」
「それは難しいかな」
「ッ!…なんで」
「緋桜が危なかったら、助けるのは当たり前でしょ?」
「……でも」
緋桜は俯いてしまう。
多分、今回俺が怪我したのを自分のせいだと思ってるんだろうな。
緋桜を悲しませたくはないけど、次に同じ様なことがあっても俺は絶対に緋桜を助ける。
「大丈夫。言ったでしょ、俺は運が良いって。今回だってこの程度で済んだんだから」
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