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第53話
木崎が『お化け屋敷に入ってみる?』と言い出した。
どうしようかと思った。俺は暗いのが苦手だった。
それは子供の時に、小さな倉庫に一晩閉じ込められたのが原因だ。
克服しなきゃいけないと思っていても、なかなかそれが出来なかった。暗闇は嫌なことが多すぎる。
木崎に言わなきゃいけないと思いつつも、楽しそうにしている木崎を見ると言い出せなかった。
俺が我慢すれば良いだけだ。教室を使って作られたお化け屋敷だからそんなに広くない筈。
少し我慢すればすぐに出られる。
そう思っていた。
ドアが開けられると、その奥に暗闇が広がっている。
俺は少し息を飲んだ。
……大丈夫、少しの間だけだ……大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、意を決して中に入った。
中に入ってドアが閉められた瞬間、目の前に闇が広がった。
その瞬間、息が詰まった。
何も見えない。あの時と同じ………
途端に身体が震え出す。
俺は身体の震えを止めようと、自分自身を抱き締めた。
それでも震えは止まらない。
心臓がドクドク鳴って、息が苦しい。
俺は何も見えない中で無意識に手を伸ばした。
手を伸ばすと、何かに触れた。
俺は手に触れた物を握り締めた。
どれくらい時間が経ったのか分からない。
急に腕を引かれた。その瞬間、目の前が光に包まれる。
俺はその光が眩しくて目を閉じた。
「緋桜!?」
声が聞こえて、俺はゆっくりと目を開けた。
目の前には、心配そうに覗き込む木崎の顔があった。
「緋桜、来て」
そう言って、俺は木崎に腕を引かれた。
連れてこられたのは、人気のない廊下。
「緋桜、大丈夫?」
そう聞かれて少し落ち着いた俺は、小さく頷く。
……せっかく木崎が楽しそうだったのに、その雰囲気を俺が壊してしまった。
「どうしたの?」
そう聞いてくる木崎に対して、俺は何も言えなかった。
「緋桜」
何も答えなかった俺は、木崎に名前を呼ばれて答えるよう促される。
多分、このまま黙ってても木崎は見逃してくれない。
「……………………暗いのが…………駄目で………」
そう答えると、木崎に怒鳴られた。
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