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第58話

(秋哉side) そう、今日の目的は緋桜をデートに誘うこと。 って言っても、デートだと思ってるのは俺だけだけど。 「ならその日、一緒に出掛けようか」 「……え?」 そう言う俺に、緋桜はキョトンとする。 さすがに聞き返されると恥ずかしいな。 「いや、だから、一緒に出掛けよう」 「………一緒に……出掛ける…?」 緋桜は俯いてしまう。 「緋桜?」 なんか顔色が悪い? そう思って、俺は緋桜の顔を覗き込む。 「……………だめだ…」 緋桜がボソッと呟く。 「え?」 「一緒に……出掛ける、なんて……出来ない……」 「やっぱり、予定あった?」 そう聞くと、緋桜は首を振る。 「予定が、あるわけじゃないけど…………だめなんだ…」 「どうして?」 「それは………………」 「何かあるの?」 そう聞くと、緋桜は黙ってしまった。 「緋桜」 名前を呼ぶと緋桜が俺を見る。 その顔は今にも泣きそうだった。 「…………ごめん………でも…やっぱり、だめだ…」 そう言って緋桜は小さく首を振る。 断られるとは思ってた。 でもこんなに拒否られるとは思ってなかった。 ここまで頑なに断るのは、やっぱり何かあるのか? 「………俺は……木崎に死んで欲しくない」 「え?」 死ぬってなんだ? そう思って緋桜の顔を見てると、緋桜は泣き出してしまう。 「緋桜!?」 ポロポロと泣き出す緋桜に俺は慌てた。 「………ごめん………」 そう言って緋桜は、顔を手で覆って俯いてしまう。 俺は緋桜の過去に何があったのかは知らない。 でも多分、緋桜の身近で誰かが死んだ。 ………それも事故で。だから緋桜は……… 俺が車とぶつかった時の緋桜の様子から何となくはそうじゃないかと思ってた。 緋桜はその事故を自分のせいだと思ってる。 ……なんか緋桜の事が段々分かってきたような気がする。でも今は……………… 「大丈夫」 そう言って、俺は緋桜を抱き締めた。 「きさ、き……!?」 急に抱き締めた俺に、緋桜が驚く。 「前に言ったでしょ、俺は死なないよ」 そう言うと、緋桜の体が少し強張った。 俺はそんな緋桜にため息をつく。 「ったく、何を心配してるんだか」 「………木崎?」 不安そうに見上げてくる緋桜に、俺は笑い掛けた。 「忘れた?俺は運がいいんだよ」 そう言うと、緋桜は首を傾げた。 「ねぇ、試してみようよ。緋桜の悪運と俺の強運」

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