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第65話

楽しいと思ってしまった。 木崎と出掛けて、色んな店を見て、一緒にご飯を食べて、楽しいと思い始めていた。 木崎とだったら、一緒にいても良いんじゃないかと思った。 なぜか分からないけど、木崎の傍に居たいと思った。 木崎ならもしかしたら、俺と居ても大丈夫なんじゃないかと思った。 ………でもそれは俺が一番思ってはいけないこと。 スリップ音と衝突音が響いて、俺は現実に引き戻された。 「すごい音だな。事故か?」 木崎は音のした方を向く。 …………事故。 その瞬間、ドクンと心臓が鳴る。 俺の頭の中にあの時の光景が浮かんだ。 目の前の赤一色とその中に横たわる人。 更に周りの叫び声が、あの時の光景を鮮明に呼び覚ます。 身体が震えて動かない。 呼吸が苦しい。 俺はその場に踞ってしまった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ (秋哉side) 突然大通りからすごいスリップ音が聞こえてきた。 その瞬間、緋桜が踞ってしまった。 「緋桜!?」 俺は踞ってしまった緋桜を覗き込む。 見ると緋桜は胸を押さえてヒューヒューと苦しそうに呼吸をしていた。 「緋桜、どうした!?」 俺は緋桜の肩を掴んで呼び掛けるけど、緋桜から反応が返ってこなかった。 緋桜は変わらず苦しそうな呼吸を繰り返す。 ………これって、過呼吸? 俺は周りに視線を向けた。 通行人は事故の方に気を取られてて、緋桜の様子には気付いていない。 それどころか、騒ぎを聞き付けてどんどん人が集まってくる。 ……場所を変えた方がいいか。 そう思って俺は緋桜を連れて、人のいない建物の陰に移動した。 緋桜を座らせて様子を伺った。 緋桜は苦しそうに浅い呼吸を繰り返す、そんな緋桜を抱き締めた。 「大丈夫、落ち着いて」 そう言って俺は自分の呼吸に合わせて、緋桜の背中をポンポンと叩いた。 「大丈夫。大丈夫だから、ゆっくり息をして」 苦しさからか、緋桜の目から涙が溢れる。 「大丈夫、ゆっくりでいいから、俺の呼吸に合わせて」 そう言って俺は緋桜の背中を叩き続けた。 正直、この方法が正しいのかよく分からない。 でも俺は何とか緋桜を落ち着かせたくて、思い付いた方法を取った。 ゆっくりと緋桜の背中を叩いていると、次第に緋桜の呼吸が落ち着いてきた。 「そう、その調子。ゆっくり、ゆっくり」 「……き……さき………」 大分落ち着いてきた緋桜が俺の名前を呼ぶ。 緋桜と目が合って、俺は安堵から笑みが溢れた。 「もう大丈夫だから」 そう言って、俺は緋桜を抱き締めた。

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