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第66話

突然聞こえてきたスリップ音と衝突音。 その瞬間、楽しいと思い始めていた気持ちが一気に吹き飛んだ。 頭が真っ白になって、浮かんでくるのはあの時の光景。 地面に広がる赤とその中に横たわる人。 するはずのない血の臭い。 頭がクラクラする。 目の前が真っ暗になって何も見えない。 呼吸が出来なくなる。 苦しい………… どれくらい時間が経ったのか、なにか聞こえか気がした。 そのすぐ後に、身体が何かに包まれる。 ………温かい………なんだろう、これ……… さっきまでの苦しさが少し和らぐ。 「だ……ぶ…………て」 ………声? 「だ…………から……ゆ……り…………」 誰かの声がする、誰だろう…………? 「……ぶ…………ゆ……り………から…………きゅう……て」 何を言ってるのかは、ハッキリ聞こえない。 でも、その人の呼吸が伝わってくる。 その呼吸に合わせると、少しずつ呼吸が楽になってきた。 「………の……し……………ゆ……り………くり」 真っ暗だった視界が次第に開けていく。 視界が開けて、真っ先に目に飛び込んできたのは木崎の顔だった。 「………き……さき………」 まだボンヤリとしてる中で名前を呼ぶと、木崎は優しく微笑んだ。 「もう大丈夫だから」 そう言って木崎が俺を抱き締めてくる。 ………あ、この感じ…木崎だったんだ。

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