70 / 452

第68話

40分ほど車を走らせて木崎の家に着いた。 その間、木崎は俺の手を握ってくれていた。 最初は俺が木崎の服を掴んでいた。 掴んでいないと、木崎が居なくなるような気がした。 それに気付いてか、木崎が俺の手を握ってきた。 その時は手を引いたけど、木崎は離してくれなかった。やっぱり木崎は不思議だ 。 木崎には触れられても嫌じゃない。 むしろ、木崎に触れていると安心する。 移動してる間は誰も何も喋らなかった。 佐々木さんも恐らく、何があったのか気になってるはずだ。 それでも、無理に聞こうとはしなかった。 木崎の家に着くと、木崎の部屋に案内された。 「緋桜、何か飲み物持ってくるから座ってて」 そう言ってソファを指差した後、部屋を出ていった。 俺は言われた通り、部屋の中央に置いてあるソファに腰掛けた。 相変わらず豪華な家具に広い部屋。 本来ならこんな部屋で落ち着けるはずがないのに、今はなぜか落ち着く。 俺はソファの背凭れに凭れ掛かって、深くため息をついた。 また、木崎に迷惑を掛けちゃった。 せっかく、誘ってくれたのに。 ………………気になってるよな。 木崎は何も聞かないから。 俺が出掛けたくない理由も、こうなってしまう理由も………… 木崎には、話した方が良いのかもしれない。 それで木崎が離れていっても、それは仕方のないこと。 俺のせいでこんなにも迷惑を掛けてるんだ。 木崎には、知る権利がある。 「お待たせ、紅茶で良かった?」 しばらくして、木崎がトレイにティーセットを乗せて戻ってきた。 俺は木崎の質問に頷いた。 木崎は反対側のソファに座ってカップに紅茶を注ぐ。 「はい」 注ぎ終わると、木崎はカップを俺の前に置いた。 フワッと紅茶の香りが拡がる。 俺はそれを一口飲んで、ホッと息を吐いた。 ………うん、大丈夫。 「……あの……俺、木崎に話が………っ…」 大丈夫だと思ったのに、いざ話そうと思うと……怖い…… 俺がこの話をして、木崎が離れていったら。 人が自分から離れていくなんて、慣れてるはずなのに。 木崎が離れていくと思ったら、堪らなく怖かった。 俺は、上手く言葉が出てこなくて俯いてしまった。 「……無理に話さなくていいよ」 そう木崎が言う。 俺が木崎の顔を見ると、木崎はニコッと笑った。 木崎は俺が何を話そうとしてるのか分かってるのか? 「確かに知りたいけど、それは緋桜が話したいときでいい」 木崎はそう言って、また笑った。 木崎は俺が何を話そうとしているのか分かってて言ってるんだ。 「……大丈夫」 「緋桜?」 ……多分、大丈夫。木崎になら、話しても良い。 そう思って、俺は真っ直ぐ木崎を見た。 「木崎、俺の話………聞いてくれるか?」

ともだちにシェアしよう!