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第68話
40分ほど車を走らせて木崎の家に着いた。
その間、木崎は俺の手を握ってくれていた。
最初は俺が木崎の服を掴んでいた。
掴んでいないと、木崎が居なくなるような気がした。
それに気付いてか、木崎が俺の手を握ってきた。
その時は手を引いたけど、木崎は離してくれなかった。やっぱり木崎は不思議だ 。
木崎には触れられても嫌じゃない。
むしろ、木崎に触れていると安心する。
移動してる間は誰も何も喋らなかった。
佐々木さんも恐らく、何があったのか気になってるはずだ。
それでも、無理に聞こうとはしなかった。
木崎の家に着くと、木崎の部屋に案内された。
「緋桜、何か飲み物持ってくるから座ってて」
そう言ってソファを指差した後、部屋を出ていった。
俺は言われた通り、部屋の中央に置いてあるソファに腰掛けた。
相変わらず豪華な家具に広い部屋。
本来ならこんな部屋で落ち着けるはずがないのに、今はなぜか落ち着く。
俺はソファの背凭れに凭れ掛かって、深くため息をついた。
また、木崎に迷惑を掛けちゃった。
せっかく、誘ってくれたのに。
………………気になってるよな。
木崎は何も聞かないから。
俺が出掛けたくない理由も、こうなってしまう理由も…………
木崎には、話した方が良いのかもしれない。
それで木崎が離れていっても、それは仕方のないこと。
俺のせいでこんなにも迷惑を掛けてるんだ。
木崎には、知る権利がある。
「お待たせ、紅茶で良かった?」
しばらくして、木崎がトレイにティーセットを乗せて戻ってきた。
俺は木崎の質問に頷いた。
木崎は反対側のソファに座ってカップに紅茶を注ぐ。
「はい」
注ぎ終わると、木崎はカップを俺の前に置いた。
フワッと紅茶の香りが拡がる。
俺はそれを一口飲んで、ホッと息を吐いた。
………うん、大丈夫。
「……あの……俺、木崎に話が………っ…」
大丈夫だと思ったのに、いざ話そうと思うと……怖い……
俺がこの話をして、木崎が離れていったら。
人が自分から離れていくなんて、慣れてるはずなのに。
木崎が離れていくと思ったら、堪らなく怖かった。
俺は、上手く言葉が出てこなくて俯いてしまった。
「……無理に話さなくていいよ」
そう木崎が言う。
俺が木崎の顔を見ると、木崎はニコッと笑った。
木崎は俺が何を話そうとしてるのか分かってるのか?
「確かに知りたいけど、それは緋桜が話したいときでいい」
木崎はそう言って、また笑った。
木崎は俺が何を話そうとしているのか分かってて言ってるんだ。
「……大丈夫」
「緋桜?」
……多分、大丈夫。木崎になら、話しても良い。
そう思って、俺は真っ直ぐ木崎を見た。
「木崎、俺の話………聞いてくれるか?」
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