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第69話

(秋哉side) 『話を聞いてくれるか』 緋桜は意を決したように、真っ直ぐ俺を見て言ってきた。 俺はそれに頷いた。その瞬間、緋桜がホッとしたような顔をする。 でもその後は思い詰めたような顔になった。 今までの緋桜の反応から、緋桜の過去に何があったかは想像できた。 でも、緋桜自身がそれを話さなかったから俺からは何も言えなかった。 しばらく沈黙が続く。 緋桜もどう話していいのか悩んでるんだろう。 「………中学の時、俺には仲が良かった友達が居たんだ」 緋桜はゆっくりと話始めた。 緋桜の友達…………冴木 拓真。 緋桜の体質を気にしなかった、緋桜の唯一の友達。 緋桜とって、ずっと傍に居てくれた存在。 緋桜が唯一、心を開いた存在。 その存在を緋桜は突然失った。 緋桜はトラウマの塊だ。 その中でも一番大きいトラウマ。 それは、唯一の友人の死。 話を聞いていると、それはあくまで事故で緋桜のせいじゃない。 それを今までの経験で自分のせいだと思い込んでしまった。 回りの人にも責められて、それを自分で背負い込んでしまった。 それはあまりにも重くて、あまりにも深い。 だから緋桜は、あんなにも出掛けることを嫌がったのか。 だからあんなにも事故に怯えたのか。 話終えた緋桜は俯いて微かに震えていた。 多分、この事を話して俺が離れていくと思ったんだろう。 緋桜にとって、冴木 拓真のことを他人に話すってことはそれだけの覚悟が必要なんだ。 緋桜はそれを俺に話してくれた。 俺は緋桜の隣に移動した。 緋桜の隣に座ると、緋桜の身体がビクンと跳ねる。 緋桜にとっては今が一番怖いんだろう。 どう思われてるか、何を言われるか、不安で仕方ないんだろう。 でも、俺が緋桜に言いたい言葉は一つだった。 「緋桜、話してくれてありがとう」 そう言って俺は緋桜を抱き締めた。 緋桜は驚いたように俺を見る。 多分緋桜にとっては思ってもみなかった言葉なんだろうな。でもこれは、俺の心からの言葉。 「話してくれてありがとう」 そう言って俺は緋桜に笑い掛けた。 その瞬間、緋桜の目から涙が溢れる。 俺は涙を流す緋桜を、もう一度抱き締めた。 「安心して、俺は緋桜から離れないから」 その後緋桜は俺の肩に顔を埋めて、しばらく泣き続けた。 俺は泣いている緋桜をずっと抱き締めていた。 しばらくすると、腕にズシッと重みがかかった気がした。 緋桜を覗き込んでみると、泣き疲れたのか、緊張の糸が切れたのか眠ってしまっていた。 俺は眠ってしまった緋桜を抱きかかえる。 ………相変わらず軽いな。 俺は寝室のベッドに緋桜を寝かせた。 ベッドの横に置いてある椅子に腰掛ける。 緋桜の話してくれた過去。 それは緋桜にとって、人生を変えてしまった出来事。 緋桜の中の一番大きいトラウマ。 あまりに深くて、重い…… 緋桜にとって、忘れたくても一生忘れることは出来ない事。 それでも、少しでも軽くしてやりたいと思った。 そう思いながら、俺は緋桜の額にかかった髪を避けた。 俺は眠っている緋桜を見つめる。 どうしたらいい? どうしたら緋桜を助けられる? どれくらい時間が経ったのか、ドアがノックされる。 「秋哉さん」 入ってきなのは佐々木だった。 「緋桜くんはどうです?」 そう言いながら佐々木が近付いてくる。 俺は眠る緋桜に視線を向けた。 「ねぇ佐々木?」 「何ですか?」 「ちょっと、頼みたいことがあるんだけど……」 しばらく話をして、佐々木は"分かりました"と言って部屋を出ていった。 俺は眠っている緋桜の顔をもう一度見る。 緋桜がこの事を知ったら怒るかな。 これが余計な事だってのは分かってる。 もしかしたら、緋桜の方から離れていってしまうかもしれない。 それでも、これが最善の方法だと思うから。 恐らく、緋桜は避けてるはずだから。 怒られても構わない、区切りを着けるにはいい方法だと思った。

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