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第71話

目が覚めると、なぜかベッドに寝ていた。 部屋の感じから木崎の家なのは分かる。 でもなんでベッドに寝てるのか分からなくて、俺は必死に記憶を辿った。 確か………木崎に拓真の話をして… 徐々に記憶が甦ってくる。 『話してくれてありがとう』 そう言われて、木崎に抱き締められた。 木崎の言葉に泣いて、木崎に抱き締められて、おまけに泣き疲れて寝てしまうなんて。 俺はそれを思い出した途端、顔が熱くなった。 …………でも。 『安心して、俺は緋桜から離れないから』 離れて行かないんだ…………… 拓真のことを話すと決めたときに、木崎と離れる覚悟をした。 この事を知ると、殆どの人は離れていったから。 でも、木崎は…… 木崎だけは受け入れてくれるんじゃないかって、心のどこかで思っていた。 木崎だけは、離れていって欲しくないと思った。 なんでこんなこと思うのかは分からないけど、そう思ったんだ。 木崎が知りたがっているのは気付いてた。 でも木崎からはけして聞いてこない。 俺が話のを待っててくれてるのは分かってた。 俺もそれに甘えていた。でも、これ以上は駄目だと思った。 話さないのは卑怯だと思った。 何度も、話そうと思った。でも、怖くて出来なかった。 離れたくない、一緒に居たいと思った。 だから話せなかった。 …………………いつからだろう? 初めて、自分から離れたくないと思った。 初めて、自分から一緒に居たいと思った。 いつの間に、俺の中で木崎がこんなにも大きくなってたんだろう? そんな事を考えていると、ガチャっとドアが開く。 俺はその音に、思わず体が跳ねた。 「緋桜、起きてたんだ。ごめん、驚かせたね」 そう言いながら、木崎が部屋に入ってくる。 木崎はベッドの横に置いてある椅子に腰掛た。 ………なんか、木崎の顔が見れない。 そう思って、俺は俯いてしまう。 「緋桜、どうかした?」 そう言って、木崎が俺を覗き込んできた。 「っ! なんでも、ない」 そう言って、俺は顔を背けた。 木崎を見てると胸が苦しい。 心臓が高鳴って壊れそう。 ………気付いてしまった、自分の気持ち。 俺は………木崎の事が好きなんだ。 「……おう!ひ……う!」 ……俺が人を好きになるなんて、そんなの許されないのに。 「緋桜!!」 急に肩を掴まれて、体がビクッと跳ねる。 「さっきから呼んでるのに、どうしたの?」 そう言って、木崎が心配そうに覗き込んできた。 「え、あ……」 「気分悪い?」 そう聞かれて俺は首を振る。 俺が首を振ると、木崎は『良かった』と言って、ホッとしたような笑顔を見せた。 その笑顔に俺は、胸がキュウとした。 「緋桜。俺、緋桜に話があるんだ」 いやに真剣な眼差しの木崎に、俺は一瞬、怯んでしまった。 「………話?」 「うん、大事な話」 ………もしかして、やっぱり一緒には居られない……とか? そう思ったら、急に不安になる。 俺はその話を聞きたくないと思った。

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