82 / 452

第79話

(秋哉side) 「緋桜くん、緋桜くんでしょ!?」 振り向くと、40代前半の女の人が立っていた。 「っ!…………拓真、の……」 その人を見た瞬間、緋桜の様子が変わる。 「緋桜くん」 その人は緋桜を呼びながら近付いてくる。 その人が近付く度に緋桜が後退った。 緋桜のさっきの言葉と態度からして、恐らくこの人は冴木拓真の母親。 今日は冴木拓真の命日だ、鉢合わせする可能性はあった。 だけど、本当に鉢合わせするなんて…… どうする?この人に対する緋桜の態度は明らかにおかしい。 母親とも何かあったのか?緋桜から聞いた話では母親は出てこなかった。 これは、様子を見るしかないか。 「緋桜くん!」 名前を呼んで近付いてくるその人から逃げるように、緋桜は車に乗り込もうとした。 「緋桜くん、お願い待って!!」 そう言って、その人は車に乗り込もうとした緋桜の腕を掴む。 「っ!」 腕を掴まれたことで、緋桜は固まってしまった。 「お願い、逃げないで!」 そう言って、拓真の母親はぎゅっと緋桜の腕を掴む力を強める 。 「っ!…………いやだ………」 それに対して、緋桜は怯えて身体を引く。 「ごめんなさい………ずっとあなたに謝りたかったの」 「……ぇ…」 「あの時…………拓真が死んだとき、私はあなたに酷いことを言ってしまった。あなただって辛かったのに…………私は……」 「違う……あれは俺が………俺が一緒にいたから……」 そう言って、緋桜は俯いてしまう。 拓真の母親は俯いてしまった緋桜の頬をソッと包み込んだ。 緋桜はその手にビクッと反応する。 それでも緋桜はその手を拒むことはしなかった。 「あれは事故よ。あなたのせいじゃない」 その瞬間、緋桜の目から涙が流れる。 「ごめんなさい。ずっとあなたに辛い思いをさせてしまった、ごめんなさい」 そう言って、拓真の母親も泣いた。 拓真の母親としばらく話して、時間も時間で帰ることになった。 俺と緋桜が車まで戻って、拓真の母親も見送りに来てくれた。 「緋桜くん、本当に拓真のお墓に行かないの?」 拓真の母親が緋桜にそう声を掛ける。 「すいません、今はまだ…………」 「そう………でもまた来てね」 そう言って、拓真の母親はニコッと笑った。 「……はい」 緋桜は返事だけして、車に乗り込んだ。 緋桜が乗り込んだのを確認して、俺も車に乗り込もうとした。 「ちょっと待って!!」 乗り込もうとした時に、拓真の母親に引き留められた。 緋桜も佐々木も何事かとこっちを見る。 「えっと………」 拓真の母親は少し口ごもって、チラッと緋桜を見る。 俺は二人に待ってるように言って車のドアを閉めた。 何となく、緋桜には聞かせたくないように見えた。 「何ですか?」 「あ、ごめんなさい……あなた、緋桜くんのお友達よね?」 「はい」 「緋桜くんのことは知ってるの?」 あぁ、そういうことか……… 「知ってますよ。緋桜が"疫病神"って呼ばれてた事も、息子さんの事も」 「あなたは大丈夫なの?」 「何がです?」 「緋桜くんと居ると、トラブルとかいろいろあるでしょ?」 ………この人も他のやつと一緒なのか。 トラブルがあると緋桜のせいにするのか。 俺はそう思うと腹が立って仕方なかった。 「そんなの関係ないですよ」 秋哉は車の中の緋桜を見る。 「緋桜が周りになんて言われようと、俺は緋桜が悪いとは思わない」 そう言うと、拓真の母親がフッと笑った。 「……あなたは緋桜くんのことが好きなのね」 「え?」 「あなたの緋桜くんを見る顔を見てたら分かるわ」 そう言って拓真の母親がクスクスと笑う。 「でも安心したわ。あなたみたいな人が緋桜くんの側にいてくれて。これからも緋桜くんのことよろしくね」 そう言って拓真の母親は笑う。 あぁそうか、この人は緋桜の事を知ってるからこそ心配なんだ。 「任せてください」 そう言って俺は頷いた。 その後、拓真の母親と別れて俺たちは帰路についた。

ともだちにシェアしよう!