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第82話
一昨日、木崎が告白されているところを偶然見てしまった。
木崎の様子からして断ったみたいだけど、俺はその事が頭から離れなかった。
考えてみれば木崎がモテない訳がなかった。
告白なんて、木崎にとっては当たり前なんだろう。
そんな事をグルグルと考えていたら木崎に心配された。
本人に確かめるなんて出来なくてその時は誤魔化したけど、木崎も変に思ってるだろうな………
でも………木崎に好きな人が出来てその人と付き合うことになったら、もういつもみたいに接してくれなくなるのかな?
でも、それは仕方のないことだ………
誰でも、好きな人が出来たらそっちを優先する。
それは当たり前の事。
だから、俺は木崎を優先する。
大丈夫、受け入れられる………………そう思ってた。
その時は気付かなかった。
俺の中に生まれた黒いもの。
木崎に好きな人が出来たら、恋人が出来たら……
そんな事を考えていると、次第に大きくなっていく。
これの正体が何なのか、俺には分からない。
日に日に大きくなっていくそれは、俺ですら怖くなった。
「緋桜、どうしたの?何かあった?」
俺の様子がおかしいって気付いたのか、木崎は何回もそう聞いてくる。
その度に自分の中の黒いものが大きくなる。
胸が苦しくなる。木崎が誰かのものになるなんて、嫌だと思った。
自分の中にこんな感情があったなんて知らなかった。
人が離れていくのも、諦めるのも慣れてたはずなのに………
それが今はすごく嫌だ。木崎の側にいたら、黒いものに飲み込まれて俺が俺じゃなくなるような気がした。
だから、そうなる前に木崎から離れようと思った。
その日から俺は、木崎に見つからないように隠れた。
朝は早く家を出て近くの公園で時間を潰してギリギリに登校した、休み時間は木崎が来ないような場所に隠れて、放課後は木崎に見つからないように裏口から出た。
教室に戻ると『生徒会長が探してた』と皆が口々に言う。
木崎が俺を探してるのは分かってた。
なんで木崎がここまで俺に関わろうとするのか分からない。
俺から離れたんだから、そのまま放っておいてくれればいいのに。
俺は、そう思いながら窓の外を眺めていた。
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