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第85話
「あぁ、いたいた!」
そう声がして振り向くと、佐倉先輩が立っていた。
「中村って隠れるの上手いよな。探すの苦労したよ」
「…………何か、用ですか?」
なんでこの人も俺に構うんだ。
「用ってほどでもないけど」
「……なら俺に構わないでくれますか」
そう言って俺は目を逸らす。
そんな俺を見て、佐倉先輩がクスッと笑った。
「なんで秋哉から逃げてんの?」
「…………あんたには、関係ない」
そう言って、俺はその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待ってよ!」
俺が佐倉先輩の横を通り過ぎようとした時、佐倉先輩がそう言って俺の腕を掴んできた。
その瞬間、ゾワッと悪寒が襲った。
「っ!触るな!!」
そう叫んで、俺は掴まれた腕を振り払う。
佐倉先輩は振り払われた自分の手を眺めた。
「なぁ、中村?」
名前を呼ばれると体が跳ねた。
恐る恐る先輩を見ると、先輩はニコッと笑った。
「俺と少し話そうか」
俺は佐倉先輩に連れられて生徒会室に来ていた。
佐倉先輩に『話をしようか』と言われたとき、最初は断ったけど気迫に負けた。
顔は笑顔のはずなのに、逆にその笑顔が怖かった。
俺は渋々、先輩に着いてきた。
………話って何なんだろう。
そう思って、俺はチラッと佐倉先輩を見る。
先輩と目が合うと、体が揺れた。
そんな俺を見て、先輩はクスッと笑う。
「取って食う訳じゃないからさぁ、そんな怯えないでよ」
そう言って、佐倉先輩は困ったように笑った。
「………話ってなんですか?」
「秋哉の事。単刀直入に聞くけどさ、中村って秋哉のこと好きだよね」
先輩にそう言われて、体が跳ねた。
俺は驚いて先輩の顔を見た。
「なんでって顔してるね」
そう言って先輩は笑う。
「見てれば分かるよ。この前もさっきも、秋哉には見つからないように秋哉の事を見てたよね」
俺は何も言えなかった。
「ねぇ、なんで秋哉から逃げてんの?」
………佐倉先輩の視線が突き刺さる。先輩の目が見れない。
そう思って、俺は俯むいた。
『なんで秋哉から逃げてんの?』
そう聞かれて、俺は答えることが出来なかった。
俺が木崎を好きだから、なんて言えない。
「秋哉のこと好きなんでしょ?」
………それにも答えることが出来ない。
何も言わないでいると、佐倉先輩がため息をつく。
「黙りか………本当、なに考えてるか分かんないね」
そう言われて、体が揺れた。
「秋哉の事が好きなくせに離れる。秋哉を振り回して楽しい?」
「違う!俺は…………」
俺は言いかけた言葉を飲み込んで俯く。
木崎を振り回してる訳じゃない。俺は木崎の邪魔になりたくないだけ……
「秋哉に言わないの?」
「………言ってどうなるんですか」
俺の気持ちを、木崎に言ったとこで迷惑になるだけだ。
「言う前から諦めてんだ?」
そう言って佐倉先輩は、こっちをじっと見てくる。
この人の視線は苦手だ。すべてが見透かされるような、そんな視線。
「中村はさぁ、自分が怖いだけだろ?」
佐倉先輩はガタッと立ち上がって近付いてきた。
「自分が傷付くのが嫌だから、だから逃げるんだろ?」
そう言って先輩は俺の前に立つと、ソファの背凭れに手を置く。
その瞬間、俺の体がビクッと揺れる。
「っ!……いやだ…」
俺は迫ってくる先輩に恐怖を覚えた。
………いやだ………怖い……
俺は先輩からなんとか距離を取ろうと後退る。
でも先輩とソファの間に挟まれて身動きが取れない。
「中村は相手の事を考えてるようで、自分の事しか考えてないんだよ」
そう言って先輩が俺の腕を掴んできた。
その瞬間、ヒュッと息が詰まった。
恐怖で体が震える。
「…やだ………やめて……」
あの時の光景が頭に浮かんで、俺は頭が真っ白になった。
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