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第86話
(佐倉side)
ほんの脅しのつもりだった。
少し怖がらせれば、多少は本音が出ると思った。
俺が中村の腕を掴んだ瞬間、中村は震えて泣き出した。
中村は元々、あまり他人とは関わりを持とうとしない。
でも、容姿の見た目から何かと注目されていた。
その噂は学年の違う俺たちにも届くくらいだ。
どういう経緯かは分からないけど、最近は秋哉とよくつるむようになってて、俺も中村の姿をよく見るようになった。
秋哉とはよく話をしてるし、スキンシップも多少はしていたから、噂なんて当てにはならないな、なんて思っていた。
でも今は……
「おい、中村!?」
呼び掛けても反応はなく、ただ体を震わせている。
「…いやだ………おねが………やめて……」
そう呟いて、中村は怯える。
この怯え方は尋常じゃない。
さっきまでは警戒はしてたけど、ここまでじゃなかった。
じゃあ、何で突然……
そう思って、俺はハッとした。
もしかして、俺が迫ったから?
元々、触れられるのは苦手なんだろうとは思ってた。
けどこんな状態になるとは思ってなかった。
これは、一度離れた方がいいか。
そう思って俺が少し動くと、中村はそれに反応して更にパニックになる。
え、これどうしたら良いの!?
そう思った瞬間、バタンと勢いよくドアが開かれた。
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