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第88話

俺の腕を掴んでくる木崎の手が微かに震えている。 木崎の顔をチラッと見ると、すごく悲しそうな顔をしていた。 木崎のこんな顔は初めて見る。 木崎はいつも自信満々で、平気で突拍子もないことをする。 そんな木崎が悲しそうで、今にも泣きそうな顔をしている。 ………俺がさせてるのか? 俺が木崎から離れたから……… 『中村は相手の事を考えてるようで、自分の事しか考えてないんだよ』 さっき佐倉先輩に言われた言葉が胸に刺さる。 俺は木崎の迷惑にならないように離れた。 『自分が傷つくのが嫌だから、だから逃げるんだろ?』 また先輩に言われた言葉が頭に浮かぶ。 自分が傷つくのが嫌だから? 木崎に好きな人が出来て、その人と付き合ったりする姿を"俺が"見たくなかったから? …………俺が間違ってた? 木崎の為と言いながら、俺は自分のために木崎から離れた。 俺は自分のことばかりで、木崎の気持ちを考えてなかった。 「…………………ごめ、ん」 俺はそう言いながら、そっと秋哉の服の袖を掴む。 「緋桜?」 「………ごめん、俺……………」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ (秋哉side) 何も言わなかった緋桜が、ボソッと呟いて俺の服の袖を掴んできた。 緋桜は俯いたままで、いまだに目は合わない。 「……どうして俺から離れたの?」 そう聞くと、緋桜はまた黙ってしまった。 「……ひ………」 「この間…………」 黙ってしまった緋桜に声を掛けようとした瞬間、緋桜も話初めてそれが被ってしまって俺は聞き取ることが出来なかった。 「え?」 聞き返すと、緋桜はまた黙ってしまう。 しまった、完全にタイミングが悪い。 せっかく緋桜が話してくれようとしたのに。 「……緋桜?」 俺は黙ってしまった緋桜を覗き込む。 緋桜は黙ったまま俯いている。 俺は今度は緋桜が話してくれるまで待った。 しばらく沈黙が続く。 どれくらい経ったのか、緋桜がポツリポツリと話始めた。 「…………この間、木崎が女子に、告白されてるとこを見た……」 女子からの告白? ……………あぁ、あの時か……って、それを緋桜が見ていた? 「木崎がモテない訳がないよね。ふと、思ったんだ…………今は居なくても、いつか木崎に好きな人が出来て……その人と付き合ったりするんじゃないかって…………そうすれば俺は邪魔になる……」 「…………それで、俺から離れようと思ったの?」 俺がそう聞くと、緋桜はコクンと頷いた。 その瞬間、俺はため息をついて緋桜の肩に額をつけた。 そんな俺に、緋桜は慌てる。 「木崎!?」 「なんだ………そんな事だったんだ。俺、嫌われてたわけじゃないんだな」 「……そんなことって」 俺は顔を上げて緋桜を見る。 その瞬間、緋桜は息を飲んで固まってしまった。 俺はそんな緋桜は笑い掛けた。 「安心して、もうそんな心配する必要はないから。緋桜が俺から離れる必要はない。 ……だって、俺が好きなのは緋桜だから」

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