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第89話
『だって、俺が好きなのは緋桜だから』
木崎は確かにそう言った。
「………なに、言って………?」
「俺は緋桜が好きだよ」
木崎は俺にもう一度『好き』と言う。
その瞬間、ドクンと胸が鳴った。
「……うそだ……」
俺は木崎の言葉に小さく首を振る。
木崎が俺を好きになるはずがない。
「嘘じゃないよ。俺は緋桜が好きだ」
また『好き』と言う。
木崎に好きと言われる度に胸がドキドキして苦しくなる。
「俺は緋桜が好きだ」
そう言って、木崎が俺に近付いてくる。
逃げようにも、腕を掴まれてて逃げることが出来ない。
「……やっ…」
近付いてくる木崎を見ることが出来なくて、俺は目をギュッと瞑った。
俺は、人の『好き』という言葉が信じられない。
俺に好きと言ってくれた人は、最終的に皆離れていった。
「緋桜」
木崎も同じかもしれない。
「緋桜、目を開けて」
木崎がそう言うと、頬に触れられる感触がして思わずビクッと体を震わせる。
「大丈夫、そんなに怖がらなくていいから」
そう言われて、俺はゆっくりと目を開けた。
目を開けると、目の前に木崎の顔があってにっこりと微笑んでいた。
「大丈夫、俺は緋桜から離れないから」
そう言って、木崎は俺を抱き締めてきた。
「大丈夫だから」
木崎はそう言って、俺を抱き締める腕にギュッと力を入れる。
こんなことは、有り得ないって分かってる。
「俺は絶対に緋桜を悲しませたりしない」
駄目だって分かってる。
「緋桜を決して、一人にはさせないから」
でも………
「俺は緋桜が好きだ」
駄目だと、有り得ないと分かってるのに。
俺は、自分の中から溢れてくるものに抗うことが出来なかった。
「………………俺も……木崎が……好きだ……」
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