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第96話

(秋哉side) 押し倒したことで、緋桜は息を飲んだ。 俺は緋桜にキスする。その瞬間、緋桜の体がビクッと揺れる。 唇を離すと、緋桜は体を強張らせていた。 やっぱり怖いんだろうな。 そう思いながらも、俺は緋桜の服の中に手を入れた。 「ッ!…やっ!」 服の中に手を入れた途端、緋桜が俺の手を掴んで止める。 その手は震えていて、顔には恐怖が浮かんでいた。 その様子を見て、俺はため息をついた。 「緋桜、気持ちは嬉しいけど、無理はしてほしくない」 俺がそう言うと、緋桜は背中を向けて丸まってしまった。 俺はもう一度ため息をつく。 俺は丸まっている緋桜の頭をクシャっと撫でた。 「なんで、しようだなんて言ったの?」 「…………木崎なら………大丈夫だと、思った……」 緋桜は背中をこっちに向けたまま呟く。 「俺、待つって言ったよね。そんなに焦らなくていいよ」 そう言って、秋哉は緋桜の頭を更にグシャグシャと撫でた。 「大丈夫だから、ゆっくりいこう」 「………ごめん」 身体を起こして、向き合ってきた緋桜が申し訳なさそうにする。 ………これは、かなり気にしてるな。 気にするなって言っても、緋桜の場合悪い方に考えるからなぁ。 「じゃあさ、代わりじゃないけど、俺のこと名前で呼んでよ」 「え?」 緋桜が驚いた顔をする。 「俺のこと、"木崎"じゃなくてさ。名前で呼んで、ね?」 そう言って、俺は笑い掛ける。 そうすると、緋桜は顔を赤くして俯いてしまった。 「緋桜、ほら呼んでよ」 緋桜の中で、俺の名前を呼ぶことに対して何か葛藤があるみたいだ。 そんなに言い渋るものでもないと思うんだけどなぁ。 「緋桜?」 ようやく意を決したのか、緋桜がキッとこっちを見た。 「…………っ……しゅ、秋哉……」 緋桜は頬を赤らめて、目を潤ませて俺の名前を呼ぶ。 あ、しまった……… 俺は口を手で覆う。 これ、最大の爆弾だ。破壊力が半端ない! 緋桜に名前で呼ばれるのがこんなに嬉しいとは………… 「……木崎?」 俺の様子がおかしいと思ったのか、緋桜が心配そうに覗き込んできた。 …………早速戻ってるし。 そう思って、俺は覗き込んできた緋桜の顔を見る。 「緋桜、名前」 「……ぁ……秋哉……」 そんな緋桜に俺は笑った。 「これからは、名前で呼んでね」

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