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第101話

適当に身体を拭いて、置いてある服を着る。 俺は脱衣場のドアの取っ手に手をかけると、開けるのを少し躊躇った。 全裸の姿を見られたことで、木崎と顔を会わせづらい。 かといって、ここに籠るわけにもいかない。 俺は意を決してドアを開けた。 そっと部屋の中の様子を伺う。そこには木崎の姿はなかった。 ………木崎、いない。 俺はゆっくりと部屋に入っていく。 部屋の中を見渡しても、木崎の姿はなかった。 木崎、どこ行ったんだろう……? 「………木崎?」 呼んでも返事はない。 俺は取り敢えず、ソファに腰掛けた。 ……俺、本当に木崎と付き合い始めたんだな。 木崎が俺を好きになってくれるなんて、思ってもみなかった。 今まで、俺の事を好きだって言ってくれる人はいなかったから不思議な気分だ。 でもこうして一人でいると、夢だったんじゃないかと不安になる。 本当に俺でいいのかな?木崎の迷惑にならないかな? そんな事を考えていると、ふと木崎が名前で呼んでと言ってた事を思い出した。 別に、名前で呼ぶのが嫌な訳じゃない。 むしろ嬉しい。でも今まで、誰かを名前で呼ぶなんてしたことなかったから、正直どうしていいのか分からない。 普通に呼べるようになるのかな。そうなれば良いな。 「……………秋哉」 俺はボソッと木崎の名前を呼んでみた。 木崎の名前を呼んだ瞬間、後ろから抱き締められた。 「なに?」 そう声がして、振り返ると木崎が微笑んでいた。 「ッ!なっ!?」 『なんで!?』と言おうとしたけど、驚きすぎて言葉が出てこなかった。 木崎はそんな俺を見て、クスクスと笑う 「木崎!?どうして!?」 さっきまで居なかったのに。 「また『木崎』に戻ってる。ねぇ、さっきみたいに名前で呼んでよ」 そう言って、木崎は俺を抱き締める腕に力を入れた。 「ッ!」 「ねぇ緋桜、呼んで」 「…………………………秋哉」 俺が名前を呼んだ瞬間、木崎は嬉しそうに笑った

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