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第102話

その笑顔を見ると、胸がキュウってなる。 こうやって抱き締められるのも、嬉しいような、恥ずかしいような不思議な感覚。 今までこんな感覚知らなかった。 「……ごめん、名前で呼べなくて」 そう言って俺は、後ろから抱き締めてくる木崎の腕にそっと触れた。 「……その……慣れてなくて……」 「慣れてない?」 「こういう風に人と接するの。名前も……今まで呼んだこと、ないから……」 木崎は俺の話をじっと聞いていた。 「……今までは俺が名前を呼ぶと、不幸が移るって…言われてたから……」 そう言うと、木崎の手に力が入る。 「俺は緋桜に名前で呼ばれると、すごく嬉しい。前にも言ったけど、緋桜と一緒にいて不幸になるとは思えない。俺は今、緋桜と一緒にいてすごく幸せだ」 『一緒にいて幸せ』なんて、今まで言われたことのない言葉。 それを聞いて、俺の目から自然と涙が溢れた。 「俺……呼んでも、いいのかな?」 「呼んでよ。俺は緋桜に名前で呼んでほしい」 木崎にそう言われて、更に涙が出た。 俺は身体を捻って、木崎に手を伸ばす。 「……秋哉……秋哉……」 俺は秋哉の名前を呼びながら抱き付いた。 泣きながら秋哉に抱き着いてると、秋哉の顔が近付いてきた。 秋哉はそっと、俺にキスをした。 最初は触れる程度のキス。それを何回も繰り返す。 触れる程度のキスを繰り返す内に、それが少しずつ激しいものに変わっていく。 口を閉じていると、秋哉が俺の唇を舐めて開けるように促してきた。 俺はそれに従って、少し唇を開く。 そうすると、その隙間をぬって秋哉の舌が口内に入ってきた。 「…んっ」 歯列をなぞられ、上顎を刺激される。 舌を絡められて、ゾクゾクと全身に広がっていく。 熱い…… 苦しい…… 俺は訳が分からなくなって、ただその与えらる刺激を受け入れていた。 どれくらい経ったのか、秋哉の唇が放れていく。 俺はそれがちょっと寂しいと思った。 呼吸が上手く出来なくて頭がクラクラする。 俺はそんな中、秋哉を見た。 「緋桜、ごめん」 その瞬間、秋哉がそう言って突然俺を抱き上げた。 「え!?」 俺は突然の事で驚いて固まってしまう。 秋哉に連れて行かれたのはベッドルームで、ベッドの上に下ろされたかと思ったら、俺はそのまま押し倒された。

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