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第105話

目が覚めると、秋哉の姿はなかった。 時計を見ると、午前7時前だった。 秋哉はリビングかなと思って、俺はリビングに向かった。 長い廊下を歩く。秋哉の家は広い。 何部屋あるのか、俺には分からない。 ここで佐々木さんと二人で住んでるのか………… この家で秋哉と佐々木さん以外の人を見たことがない。 でも、こんな広い家を佐々木さん一人で管理するのは難しいと思う。 やっぱりお手伝いさんとかいるのかな? そう思いながら、俺は廊下を歩いていた。 「あら?おはようございます」 廊下を歩いていると、突然後ろから声を掛けられた。 俺は思わずその声に身体がビクッと跳ねた。 声がした方を見ると、女の人がニコニコと笑って立っていた。 「秋哉さんならリビングにいらっしゃいますよ」 そう言いながらその人は近付いてくる。 俺はそれが怖くて思わず後退った。 こんな広い家に、二人きりなはずはないと思っていたけど、こうも急に来られると対応が出来ない。 俺が怖がってることに気付いたのか、その人は少し困ったように笑いながらリビングの方に向かっていった。 女の人がリビングに入ってすぐに秋哉が顔を出した。 「緋桜、どうしたの?」 そう言って、秋哉は俺に駆け寄ってくる。 秋哉の顔を見た瞬間、俺はホッとした。 「顔色が良くないけど、気分でも悪い?」 そう聞かれて、俺は首を振った。 「大丈夫、少し驚いただけ。この家で、秋哉と佐々木さん以外の人に会ったこと無かったから………」 「そうか、午前中だけ掃除とかをしにハウスキーパーが来るんだ。ごめん、言っておけば良かったね」 そう言われて、俺はまた首を振った。 俺が首を振ると、秋哉はニコッと笑った。 「朝食の準備出来てるから、一緒に食べよう?」 そう言われて、俺は頷いた。 朝ごはんを食べて、俺と秋哉は佐々木さんに送られて学校に向かった。 俺は隣に座る秋哉をチラッと見た。 秋哉はいつもだったら助手席に乗るのに今日は後部座席に乗っている。 秋哉は目が合うとニコッと微笑んでくれた。 俺はちょっと気恥ずかしくて目を逸らしてしまった。 秋哉に気持ちが通したことがいまだに信じられない。 まだ夢なんじゃないかと思う。 俺がこんなに幸せでいいんだろうか。 秋哉に気持ちが通したのは嬉しい。 けど、秋哉に何かあったらと思うとすごく怖い。 「……う……緋桜!」 ボーっとそんな事を考えていると、秋哉に呼ばれてハッとした。 「学校ついたよ。どうしたの、ボーっとして」 「悪い、何でもない」 そう言って俺は秋哉に続いて車を降りた。 車を降りると秋哉は佐々木さんと何かを話している。 俺はその様子を眺めていた。 「ごめん、お待たせ」 佐々木さんとの話をし終えた秋哉がそう言って俺の方に駆け寄ってきた。 俺たちは二人並んで、校舎の方に向かった。 「二人ともおはよう」 校舎に向かって歩いてると、後ろから声を掛けられた。 俺と秋哉がほぼ同時に振り替える。 そこには佐倉先輩が爽やかな笑顔を向けて立っていた。 俺は佐倉先輩の顔を見た途端、昨日の事を思い出して思わず秋哉の後ろに隠れた。 「中村そんなに警戒しなくても、もう何もしないって」 佐倉先輩にそう言われても、俺は秋哉の後ろから出ることが出来なかった。 「蒼、また中村くんに何かしたの?」 そう言って、佐倉先輩の後ろから宮藤先輩が顔を出す。 「俺は別に何もしてないって!ただ中村に気付かせただけだ!」 そう言う佐倉先輩に宮藤先輩は『中村くんが怯えてるでしょ、蒼はいつもやり過ぎなの!』と一喝を入れる。 「ごめんね、何したか分からないけど許してあげて?」 そう言って宮藤先輩は顔の前に手を合わせて謝ってくる。 「蒼はイタズラが過ぎるだけで、悪いやつじゃないのよ」 宮藤先輩は俺が佐倉先輩に悪い印象を持ってると思ってるのか、必死に弁解をしてきた。 「…あの、大丈夫……ですよ。佐倉先輩が良い人なのは、分かってますから」 俺がそう言うと、宮藤先輩はパァと笑顔になる。 「ありがとう!」 そう言って宮藤先輩が俺に手をのばして近付いてきたから、俺は思わず後ろに逃げてしまった。 「秋哉ごめん、先に行く」 「え!?ちょっと緋桜!?」 俺は先輩たちにこれ以上近付かれるのが嫌で、秋哉を置いて校舎に走った。

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