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第106話
(秋哉side)
緋桜は止める間もなく走って行ってしまった。
「せっかく緋桜と一緒に登校しようと思ったのに、二人がちょっかい出すから緋桜が逃げちゃったじゃないですか」
俺がそう言うと、二人は『ごめん』と謝ってくる。
謝ってくれるのはいいけど、二人がずっとニヤニヤしてるのが気になった。
「……なんですか、さっきからニヤニヤして」
俺がそう聞くと二人は顔を見合わせて笑うと、二人同時に『おめでとう』と言われた。
「ようやくくっついたな」
「中村くん、秋哉のことをもう名前で呼んでるのね」
一瞬、何に対してのおめでとうなのか分からなかったけど、二人の言葉で理解した。
その後俺は、二人にいろいろ質問された。
それもからかう気満々の顔で……
俺はこの時、この二人にからかう材料を与えてしまったことを心底後悔した。
『それは良いとして』と言って、ニヤニヤと笑ってた二人が急に真顔になる。
「中村は本当に触られるのが駄目なんだな」
そう言って佐倉先輩は緋桜が走っていった方を見る。
「私が触れようとしたら避けてたものね」
宮藤先輩もそう言って緋桜が走っていった方を見た。
昨日の佐倉先輩が緋桜に迫ったときの緋桜の怯えようを見て、それが気になったようで昨日の夜に佐倉先輩から電話がきた。
そこで佐倉先輩には、緋桜に何が起きたのか話した。
佐倉先輩に話した時点で宮藤先輩にも伝わることは予測していた。
この分だと日向先輩にも伝わってるだろう。
「さっき緋桜に触れようとしたのはワザとだったんですね」
俺がそう言うと、宮藤先輩はまた謝ってきた。
「中村くんを襲ったのって、あの3年の不良よね?」
「斎藤だっけ?そいつって確か秋哉が退学にしたよな?」
「緋桜にあんなことしといて何も無しはないから」
「でも、あそこまで他人を拒絶するのはちょっと……」
そう言って宮藤先輩は少し悲しそうな顔をする。
「でも秋哉のことは平気なんだろ?」
佐倉先輩がそう言うと、宮藤先輩も俺を見てきた。
「全部がって訳じゃない、俺が触れようとしても一瞬ビクつくから」
俺がそう言うと、佐倉先輩は『そっか』と言って何かを考え出しだ。
しばらく考え事をしていた佐倉先輩が『よしっ!』と言ってパンと手を叩いた。
「中村を生徒会に入れよう」
「は?」
俺は先輩の突拍子もない発言に一瞬、思考が止まった。
「あ、それ良いかも」
と、宮藤先輩が佐倉先輩に賛同する。
佐倉先輩も『だろ?』とか言っている。
「ち、ちょっと待ってください。緋桜を生徒会にいれるんですか?」
「まだ書記枠が一つ余ってるしな」
「中村くんは成績クリアしてるし、生活態度も問題なし!」
そう言って二人は『善は急げ』と言って校舎に走っていく。
「ちょっと待ってください。緋桜に確認は?」
「中村に言ったら断るに決まってんだろ!それに生徒会に入った方がお前も安心だろ?」
「それはそうだけど……」
本当にいいのかと思いつつ、俺は職員室に走っていく二人についていった。
「日向先輩には確認取らなくて良いんですか!?」
この学校は少し変わっていて、生徒会役員選挙みたいなものがない。
役員を決めるのは、現生徒会役員のメンバーの推薦だ。
ただ条件はある。
成績が学年総合順位10番以内、生活態度に問題なし、この2つと現生徒会役員全員の推薦、これに理事長の承諾が得れば生徒会役員になれる。
俺もそうやって前生徒会長に推薦されて生徒会長をしている。
「それは大丈夫!」
そう言って佐倉先輩が俺の前に携帯を付き出してきた。
「朱春にはメールしといた」
そう言われて、携帯の画面を見ると『問題ない』と書いてある。
これで現生徒会役員全員の推薦が得られた。
この人、本当に仕事早い。
いつの間に日向先輩にメール送ったんだ?
後は、理事長の承諾だけだ。
職員室につくと、校長に会う。
校長に取り次いで貰って理事長に会う。
理事長に会うのもちょっと面倒くさい。
校長に会うと口頭で緋桜を生徒会書記に推薦することを伝える。
本来はちゃんとした書類が必要だ。
推薦された人と生徒会役員の署名、それが書かれた書類に理事長が署名して初めてその人が生徒会役員に任命される。
その書類は先輩たちが校長に説明してる間に日向先輩が作成して持ってきた。
本当に仕事が早い。
俺たちはその書類に署名をして、理事長の署名も無事に貰えた。
これで緋桜の生徒会入りが決定した。
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