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第110話
(秋哉side)
「緋桜、彼は?」
俺がそう聞くと、緋桜は少し口をつぐむ。
「…………弟」
少し経ってからそう言った緋桜は表情を曇らせた。
弟とも何か蟠りがあるのかと思ってそいつを見るとパチッと目が合う。
目が合った瞬間、そいつはニコッと笑った。
「こんにちは、僕は中村緋桜の弟の中村緋方です」
そう言って緋方は手を出してくる。
「…あ、木崎秋哉、です」
俺も名前を名乗ってその手を握った。
「木崎さん?木崎さんは兄さんとはどんな関係なんですか?」
そう聞かれて、俺は返答に困った。
恋人、って言ったらマズイよな。
「……友人、かな?」
「へぇ、兄さん友達が出来たんだ」
そう言って緋方は緋桜に視線を向ける。
その瞬間、緋桜はビクッと身体を震わせて目線を逸らした。
緋桜は緋方からは見えない所で俺の服を掴む。
やっぱりこいつとも何かしらあったんだな。
そういえば、前に家族もどうのって話してたな。
詳しくは知らないけど、会いに来た弟に対しての緋桜の怯え方は尋常じゃないと思った。
「兄さん、僕、兄さんの家に行きたいんだけど」
「…え?」
「駄目かな?」
そう言って緋方は緋桜に甘えるような視線を向ける。
緋桜はそんな緋方の視線から目を逸らした。
「……ごめん……この後、用が、あるから……」
そう言って緋桜は俺の服を更にギュッと握る。
そんな緋桜の様子を見て、緋方は俺の方をチラッと見た。
「……兄さんは僕のお願い聞いてくれないんだ」
緋方がそう言うと、緋桜はビクッと身体を震わせる。
緋桜はその後、『ごめん』と小さく呟いて俺から離れた。
俺はそんな緋桜の腕を掴んだ。
「緋桜、大丈夫?」
そう聞くと緋桜は小さく頷いた。
「素直に行かせるなんて珍しいですね」
俺が緋桜と緋方を見送ってから割かし直ぐ、見慣れた車が横に止まったかと思ったら窓から顔を出した佐々木がニヤッと笑いながらそう言う。
「来てたのか」
そう言うと、佐々木はムスッとした表情を見せる。
「あなたが迎えに来いって呼んだんですよ」
剥れる佐々木に俺は思わず笑ってしまう。
「そうだったな」
そう言って笑う俺に、佐々木は車から降りて後部座席のドアを開けながら小さくため息をついた。
その後、少し真剣な目をして俺を見てきた。
「でも、本当に行かせて良かったんですか?緋桜くん、ちょっと様子がおかしかったですけど……」
そう言って佐々木は緋桜たちが去っていった方向に視線を向けた。
俺もそれに釣られて佐々木と同じ方向を見る。
緋桜が自ら行ったんだ。
それを俺に止める権利はない。
でも………
「佐々木、ちょっと頼みがある」
俺がそう言うと、佐々木は何かを察したようにため息をついた。
「…俺は何をすれば良いんですか?」
少し呆れ顔で言う佐々木に俺はニッと笑った。
「理解が早くて助かるよ」
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