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第111話
緋方と一緒に家に向かう道を歩く。
久しぶりに家に帰るなと思う。
思えばここ最近は秋哉のところに入り浸っていた。
学校が終わると佐々木さんが迎えに来てて、いつの間にかその車に一緒に乗って秋哉の家に行くのが当たり前になっていた。
「………さん」
自分の家なのに、その家に帰るのが少し不思議な感じがした。
「兄さん!!」
そんな事を考えていると、突然呼ばれて目の前に緋方の顔が飛び込んでくる。
俺は反射的に後ろに下がった。
そんな俺を見て緋方が笑う。
「そんなに怯えなくていいのに」
そう言って緋方はクスクスと笑う。
俺はそんな緋方をまともに見れなかった。
俺は緋方が怖い。
秋哉に『大丈夫か?』と聞かれたとき、本当は一緒にいてほしかった。
でも一緒にいたら緋方は秋哉に何をするか分からない。
秋哉には緋方と関わって欲しくなかった。
緋方はなぜか俺が他人と接することをよく思わない。
もともと人と関わるのが苦手な俺はそれでも良かったけど、秋哉は、秋哉だけは別だ。
緋方は秋哉のことを俺の友人だと思ってるけど、それもあまりよくは思ってないみたいだった。
これで、もし秋哉が俺の恋人だとバレたら。
そう思うと怖くて堪らない 。
少しの間だけ、俺が我慢すればいい。
そう思っていた。
アパートに着くと、俺は玄関の鍵を開けて中に入った。
家に入ると、しばらく帰ってなかったせいか少し埃っぽい。
俺は緋方を少し外に待たせて部屋の窓を開けた。
薄暗かった部屋に光が射し込む。
もともと物は少ない方だし、そこまで広くない部屋だけど、なぜか久しぶりに入った自分の部屋が寂しく感じた。
そう思っていると、ふと秋哉の顔が浮かぶ。
……そうか、秋哉が居ないんだ。
少し前まで一人が当たり前だったのに、今では少し離れただけで寂しいと思う。
今までこんな風に思ったことがなかったから少し不思議な感覚だった。
少し部屋の換気をして緋方を中に招き入れた。
「……ふーん、ここが兄さんの部屋なんだ」
そう言って緋方は部屋の中を見回す。
「……お茶、淹れるから適当に座ってて」
ソファのある位置を指差して、俺はキッチンに向かった。
キッチンに入ると緋方と少し距離が置けたことに俺はホッと息を吐いた。
やっぱり緋方と二人きりは落ち着かない。
緋方とはどう接していいのか分からない。
小さい時からそうだった。
俺と緋方は一つしか歳が違うせいか、周りからよく比べられてた。
駄目な兄に出来た弟。
それが周りの評価だ。
緋方は運動も勉強も出来る。
人当たりもよくて、周りの人からは信頼されていた。
不幸を運ぶ疫病神の俺とは真逆だ。
俺はそんな事を考えながら、お湯を沸かすために着けたコンロの火を眺めていた。
「兄さん!!」
ボーッと火を眺めていると、急に声を掛けられてビクッと身体は跳ねる。
見るといつの間にか緋方が後ろに立っていた。
「……なに?」
「僕もお茶淹れるの手伝うよ。兄さんに任せると溢しかねないからね」
そう言って緋方はニコッと笑ってコンロの前に立っていた俺を退かすと、自分がコンロの前に立った。
昔からそうだ。
緋方はいつも俺のやることを否定する。
そして手伝うと称して俺のやることを全て取ってしまう。
それが善意なのかどうなのかが分からない。
だから俺は緋方が怖かった。
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