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第112話

結局、俺はやることを無くしてリビングに戻った。 ソファに座ってため息をつく。 緋方はここに何しに来たんだろ? 緋方は俺に会いに来たって言ってたけど、本当にただそれだけなのか。 そんな事を考えていると、緋方がカップに淹れたコーヒーを持ってきた。 「お待たせ、これ兄さんの分だよ」 そう言って緋方はニコッと笑ってカップを差し出す。 「………ありがとう」 俺は緋方の手に触れないようにカップを受け取った。 緋方は自分の分のカップを持って、テーブルの反対側に座る。 緋方は座るとコーヒーを一口に含んだ。 俺もそれを見てコーヒーに口をつけた。 コーヒーの香りが口に広がって少し気持ちが落ち着く。 チラッと緋方を見ると、緋方はコーヒーを飲み続けていた。 「………父さんと母さんは、元気に、してる?」 少し落ち着いたところで両親の話を切り出してみた。 俺は家を出てから両親に会うどころか連絡すら取っていなかった。 まぁ、向こうからも連絡すらないんだけど。 「相変わらずだよ」 緋方はコーヒーの飲みながらそう答える。 「そう……ならいい」 そう言って俺はもう一度コーヒーに口をつけた。 『相変わらず』ってことは、俺のことは気にも止めてないみたいだ。 去年家が火事になって、両親はそれを俺のせいにした。 それまでは『緋桜のせいじゃない』とか『緋桜は悪くない』って言っていた。 両親はその時俺に『これはお前のせいだ』と言った。 両親はその後その事を少しは後悔してたみたいだけど、それでもギクシャクして、それに耐えられなかった俺は高校の入学を期に家を出た。 まだ半年くらいしか経ってないけど、両親からの連絡は一切なかった。 「……僕、兄さんに聞きたいことがあって来たんだ」 「……聞きたい、こと?」 俺がそんな事を考えていると、緋方がそう切り出す。 「うん」 俺が聞き返すと、緋方はニコッと笑って頷いた。 俺はその時一瞬、嫌な予感がした。 「聞きたいことって、なに?」 俺は恐る恐る聞いてみる。 「高校生活はどうかなって思って。ずっと聞きたかったんだ」 そう言って緋方はニコッと笑う。 俺はそれを聞いて、そんなことかと少しホッとした。 「……どうって、今までと代わりないよ」 俺がそう言うと、緋方は「ふーん」とちょっと興味なさそうに返事をする。 自分から聞いてきてと思うけど、いつものことすぎて俺はあまり気にしなかった。 いつものことだ。 緋方は俺に何かしら聞いてくるけど、俺が話始めると途端に聞いてるのか聞いてないのか分からない態度をとる。 「友達とかは出来たの?」 そう聞きながら緋方はコーヒーを飲む。 これも俺に友達を作れないって分かってて聞いてるんだ。 「………生徒会に、入った」 俺がそう言うと、コーヒーを飲んでた緋方の手が止まる。 「……生徒会?兄さんが?」 いつもと違う返答に緋方は驚いた顔をする。 「どういう経緯で入ったの?」 いつもは興味なさそうに聞く緋方がくいぎみに聞いてくる。 「…しゅ………木崎に誘われて……」 「木崎さんって、さっきの人だよね?兄さんとはどういう関係なの?」 そう言って緋方はじっと俺を見てくる。 秋哉のことは出さない方が良かったのかもしれない。 「……友人、だよ」 俺は緋方の目が見れなくて少し俯き気味に答えた。 嘘をついてる罪悪感もあったのかもしれない。 でも、緋方には秋哉が恋人だって言えるわけがなかった。 「……ふーん、そうなんだ」 そう言った緋方の声色が、変わったような気がした。

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