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第115話

「……嘘なんて……」 『嘘なんてついてない』そう言おうとして俺はハッとした。 そんな俺を見て、緋方はクスッと笑う。 「自分が嘘つきだって気付いた?」 緋方はそう言うと、もう片方の頬にも手を添えて顔を近付けてくる。 「僕知ってるんだよ。木崎さんが兄さんの恋人だって」 そう言われて心臓がドクンと鳴る。 「…ど、して……」 バレる筈がない、そう思った。 そんな俺を見て、緋方はクスッと笑う。 「兄さんの事なら何でも知ってるよ」 そう言って緋方は俺の頬に添えていた手を少しづつ下に下げていく。 「こうやって、人に触られるのが駄目ってことも知ってるよ」 緋方の手が服の襟元から中に入ってくる。 鎖骨をなぞられてゾクッとする。 「……いや、だ……」 あの時のことを思い出して身体が震える。 呼吸が上手く出来ない。 「…おねが……やめて……」 緋方の手が気持ち悪い。 怖い、そう思うと涙が出た。 「そんなに怖がらないでよ」 そう言って緋方は流れる俺の涙をペロッと舐める。 「ひっ」 その瞬間、俺の身体がビクッと跳ねた。 嫌だ、怖い。 身体がガタガタと震える。 俺は、それの止め方が分からなかった。 「……そんなに嫌?」 そう言って緋方がスッと俺から離れる。 緋方は『仕方ないな』と言って立ち上がると、自分の荷物をゴソゴソと漁り始めた。 止めてくれたのか? そう思って俺は緋方を目で追う。 緋方の行動が分からない。 どうしてこんな…… そんな事を考えていると、緋方が戻ってくる。 その手には、筆箱くらいの大きさのケースが握られていた。 「念のために持ってきただけで、本当は使うつもりなんて無かったんだけどね」 そう言って緋方は手に持っているケースを開けて中のものを取り出す。 「兄さんがそこまで嫌がるなら仕方ないよね」 緋方はそう言ってニヤッと笑いながら、ケースの中身を俺の目の前に突き出した。

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