121 / 452
第118話
(秋哉side)
俺は、緋桜の家につくまでずっと考えていた。
佐々木に調べてもらったこと、これをどう緋桜に伝えれば良いのか。
あれでも緋方は緋桜の弟だ。
はたして、これを見せて緋桜が信じるか。
それが不安でもあった。
「秋哉さん、着きましたよ」
そう言って佐々木は少し古ぼけたアパートの前に車を停めた。
緋桜の家。
場所は知ってたけど、初めて来た。
本当はもっと違う形で来たかったんだけどな。
そう思って俺と佐々木はアパートの階段を登った。
緋桜の家であろうところで足を止める。
「ここか?」
そう佐々木に聞くと、佐々木は『はい』と頷く。
ドアを開けようと取っ手に手を掛けようとした時、中から微かに声が聞こえてきて開けることを躊躇する。
緋桜と緋方が何か話してるのか。
そう思って少し聞き耳をたてるけどよく聞こえない。
どうしようかと思った。
もし何か話してるなら邪魔をしない方がいいのかと思った。
少し時間を置いた方がいいか。
そう思って、俺はその場を離れようとした。
『秋哉!!』
離れようとした瞬間、確かに聞こえた。
俺を呼ぶ緋桜の声。
俺は、考えるより先に身体が動いていた。
中に乗り込むと目に入ってきたのは、緋方と緋方の下で泣いて震える緋桜の姿だった。
気付いた時には、俺は緋方を蹴り飛ばしていた。
ガシャンと音が響いて緋方が吹き飛ぶ。
更に攻撃しようとした俺を佐々木が止めた。
「それ以上は駄目だ!」
佐々木にそう言われて、俺は緋方に向く怒りをなんとか押さえた。
「……悪い、もう大丈夫だ」
そう言って俺は佐々木の手をポンっと叩く。
佐々木は俺が落ち着いたことを確認すると羽交い締めにしてた手をほどいた。
佐々木の拘束が解けた俺は緋桜の傍に向かった。
緋桜は床に倒れたまま目をギュッと閉じて、その目からはボロボロと涙を流している。
俺は緋桜の横にそっと膝をついた。
その気配を感じたのか、緋桜はその瞬間ビクッと身体を震わせて更に涙を流す。
緋桜の様子と服の乱れから、緋方が緋桜に何をしようとしてたのかは安易に想像がついた。
緋桜の姿を見て、俺はまた緋方に対して怒りが込み上げてくる。
俺はその感情を押さえ込んで、出来るだけ優しく緋桜に声を掛けた。
「緋桜」
俺が名前を呼ぶと、緋桜はピクッと反応して固く閉じられていた目がうっすらと開く。
「緋桜」
もう一度呼ぶと、緋桜は瞳だけを動かして俺を見た。
目が合うと、緋桜はまたボロボロと涙を流す。
「…っ……しゅ……ゃ…」
緋桜は俺の名前を呼んで、弱々しく手を伸ばしてきた。
「うん、もう大丈夫だから」
そう言って俺はその手を取った。
ともだちにシェアしよう!