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第119話

(秋哉side) 緋桜の手を握ると、その手に全く力が入ってないのに気付く。 俺は佐々木に視線を向けた。 佐々木も俺の視線に気付くと緋桜にゆっくりと近付いた。 「緋桜くん、ちょっとごめんね」 そう言って佐々木はそっと緋桜に触れる。 「…んっ……」 佐々木が触れた瞬間、緋桜がピクンと反応する。 その反応を見て、佐々木が眉を寄せる。 「何か薬が使われてるみたいだ」 『恐らく、催淫剤の類いだろう』と佐々木は言う。 緋桜の様子から、それは俺もなんとなく予想していた。 緋桜が抵抗をみせないところをみると、何か動けなくなる薬も使われてるんだろう。 「……佐々木、緋桜を頼む」 そう言って俺が緋桜から離れようとすると、緋桜は握っていた俺の手を微かに掴む。 「大丈夫、直ぐに戻ってくるから」 そう言って笑いかけると、それで安心したのか緋桜の手が床にパタッと落ちた。 「じゃあ、話を聞かせてもらおうか」 緋桜から離れると、俺はいまだに倒れ込んでいる緋方に向き直す。 緋方は俺が蹴った腹部を押さえて、苦しそうな表情を見せながらも俺を睨む。 「…っ……かえ、せ…兄さんは、僕のだ…」 緋方は苦しそうに途切れ途切れにそう言う。 「へぇ、今の状況でそれが言えるって凄いな」 そう言って俺は倒れている緋方の横にしゃがむと、緋方の髪を掴んで無理矢理上を向かせる。 その瞬間、掴まれた髪が痛いのか、緋方は顔を歪ませる。 それでも緋方は俺を睨んできた。 「さっきまでの優等生面が嘘のようだな」 そう言って俺は更に髪を引っ張る。 「お前が緋桜の体質を利用して"あの噂"を流したのは分かってる。よっぽど緋桜を独り占めにしたかったらしいな」 ここまで言って、俺はクッと笑う。 「でも残念だったな。緋桜は俺のなんだよ。もうお前に緋桜には手を出させない」 そう言って俺は、緋方の髪を掴んでた手を離す。 急に離された緋方の頭はそのまま落ちて床に打ち付けた。 よほど痛かったのか緋方が頭を押さえてうずくまる。 俺はそんな緋方を見下ろした。 「お前は一応緋桜の弟だから今回はこのくらいで許すけど、もし次に緋桜の前に姿を見せたら、その時は容赦しない」 そう言って俺は緋方から離れて緋桜の側に行った。

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