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第120話

(秋哉side) 緋桜を家に連れて帰ると、部屋のベッドに寝かせる。 俺はその後すぐ、佐々木と話をするために部屋を出た。 「秋哉、緋桜くんは?」 俺に気付いた佐々木がそう言って駆け寄ってくる。 「今は眠ってる」 緋桜の様子からすると、薬にはあまり慣れてないんだろう。 効きすぎてるのか、緋桜はあの部屋から連れ出す前に気を失ってしまった。 このまま薬が抜けてくれればいいけど…… 「一応、医者を呼ぶか?」 「……いや、少し様子を見る」 これはあくまで俺の私情だ。 本当は医者に診せた方がいいのは分かってる。 でも、あんな状態の緋桜を他人に見せたくなかった。 緋桜は俺が診るって言ったら、佐々木には何かあったらすぐ呼ぶことを約束させられた。 俺は緋桜を寝かせている部屋の前に立った。 このまま薬が抜けてくれればいい。 でも、抜けなかったら…… 催淫剤の抜き方は分かってる。 でも緋桜にそれをするのは気が引けた。 なにより、薬を抜くために緋桜に触れる事が嫌だった。 そんな事を考えてなかなか部屋に入れないでいると、中から微かに呻き声が聞こえてきた。 「緋桜!?」 俺はその声を聞いて慌てて中に入る。 緋桜を寝かせていたベッドを見ると、緋桜は身体を丸めて震えていた。 「……緋桜、大丈夫?」 近付いてそう声を掛けると、緋桜の身体がビクッと跳ねる。 「………しゅ…や…」 緋桜はか細い声で俺を呼ぶと、潤んだ瞳でじっと見てきた。 「……秋哉……あつい……」 そう言って緋桜はまだちゃんと動かせない手を動かして俺の服の袖を掴んでくる。 俺の袖を掴んでる緋桜の手はカタカタと震えて息も荒い。 薬が抜けるどころか、むしろ今がピークなのか。 「…緋桜、少し話せる?」 俺がそう言うと緋桜は『なに?』とでも言うように首を傾げる。 でも緋桜の様子から、あまり余裕は無さそうだった。 「……緋方に何をされたのか分かる?」 そう聞くと、緋桜が息を飲む。 「……ぁ……よく、わからない…身体…動かなくなって……」 緋桜は必死で伝えようとしてくれた。 「………いやって言ったら……なんか……注射…打たれて……それで、いろいろ……触られて……わけ、わかんなくて……………」 話してる内に、緋桜の目にみるみる涙が溜まっていく。 俺はそんな緋桜を抱き締めた。 「もういい!……もういいから」 最悪だ。こうなるって安易に予測出来たのに。 緋桜を泣かせるつもりじゃなかった。 ただ状況を知りたかった。 そう思って緋桜を抱き締めると、腕の中で緋桜が震えてるのに気付く。 俺はそれにハッとする。 薬で敏感になってる緋桜に触るなんて、余計に辛くしてしまう。 そう思って俺は緋桜から慌てて離れた。 そうすると、緋桜が俺の服を掴んでくる。 「…やだ……離さないで……」 緋桜はそう言うと、目に溜まってた涙が頬を伝う。 「……お願い………離さないで……」 そう言って緋桜はポロポロと涙を流しながら俺の胸に額をつける。 「……緋桜?」 「……緋方に……触られてるとき、嫌で…嫌で仕方なかったのに………身体が反応して……そんな自分が、嫌で…」 ……そんなの薬を使われてるから仕方ない。 「緋桜、それは………」 「…………がいい」 緋桜が何かボソッと呟く。 「え?」 緋桜は顔を上げて俺を見つめる。 「秋哉が、いい」 緋桜は更にポロポロと涙を流す。 「秋哉じゃないと嫌だ」

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