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第129話

(秋哉side) 結局、緋桜はあれから三日間寝込んだ。 朝起きて緋桜の様子を見に行くと、緋桜が寝てるはずのベッドには誰もいなくて一瞬焦った。 キッチンの方から話し声がして覗いてみると、緋桜と佐々木が朝食の準備をしながら何か話していた。 その様子を眺めていると、先に緋桜が俺に気付く。 途中の作業を佐々木に任せて駆け寄ってきた。 「秋哉、おはよう」 「おはよう、もう身体はいいの?」 そう聞くと、緋桜はコクンと頷く。 「もう大丈夫」 「そう、なら良かった」 見た感じにも大丈夫そうで俺は安心した。 「部屋に行ったら緋桜が居なかったから少し焦った」 「…ぁ…ごめん」 そう言って緋桜は少し申し訳なさそうにする。 「いいよ、元気になったなら」 そう言って俺は緋桜の頭に手を置いた。 「おはようございます」 緋桜と話してると、遅れて佐々木が挨拶をしてくる。 「おはよう」 「秋哉さん、ちょっと良いですか?」 そう言うと佐々木はチラッと緋桜を見る。 「あ、じぁあ残りは俺がやっておきます」 そう言う緋桜に佐々木がフッと笑う。 「お願い出来るかな?」 佐々木がそう言うと緋桜はコクンと頷いて調理台の方に戻っていった。 「朝食の準備って、緋桜から手伝いを言ってきたの?」 調理台に向かって再び作業を再開する緋桜を眺めながら佐々木に聞く。 「はい、早く目が覚めたからって」 「……そう」 『緋桜くんから声を掛けられたのは初めてです』と佐々木は言う。 佐々木の話だとここ数日の緋桜は耐える素振りは見せるものの、触れることを極端に嫌がることは無かったらしい。 やっぱり緋桜の中で何か変化があったのか。 「ところで、緋桜くんにはいつ話すんですか?」 そう聞かれて俺は佐々木を見る。 「今日話すつもりだ。 ……だから、今日だけは見逃せよ?」 そう言うと佐々木はため息をついた。 「秋哉、学校はいいのか?」 一緒に朝食を食べてると緋桜がそう聞いてくる。 時計を見ると、学校に行く時間はとうに過ぎていた。 「今日は自主休講」 そう言うと緋桜は佐々木をチラッと見た。 「大丈夫だよ、佐々木には言ってあるから」 俺がそう言うと、緋桜は少しホッとしたような表情を見せた。 「…そうか」 多分、俺が学校をサボるって言い出した事を佐々木が怒るんじゃないかと心配したんだろう。 「それより今日の朝食の準備、緋桜から手伝いを言い出したの?」 そう聞くと、緋桜はコクンと頷いた。 「早く目が覚めたし、佐々木さんには迷惑掛けたから……」 『余計なことだったか』と緋桜は不安そうな顔をする。 「佐々木、嬉しかったみたいだよ」 「…え?」 きょとんとする緋桜に思わず笑ってしまう。 「『緋桜くんから声を掛けられた』って嬉しそうに話してた」 「……そうか」 …あ、まただ。 ここ2.3日、緋桜がよくする表情。 少しだけ口角が上がって、目を伏せる。 笑ってるような穏やかな表情。 とても笑顔とは言えないその表情。 本当、もっと笑ってもいいのに。 俺は何か無性に堪らなくなって緋桜の頬を潰してみた。 頬を押されて緋桜の顔が変な形になる。 緋桜も何が起こったのか分からないような顔をしている。 俺はその様子を見て、思わず吹き出してしまった。 「……っあに、すんだ!」 何をされてるか理解した緋桜が怒って俺の手を叩き落とす。 それでも笑っている俺を見て緋桜はムスッとする。 「緋桜、ごめんって」 そう言って謝るものの、俺がいまだに笑ってるから緋桜はジロッと睨んできた。 衝動的とはいえ、緋桜の機嫌を損ねてしまった俺は、しばらく緋桜に謝り倒した。 あぁ本当、緋桜が笑ってくれたらいいのにな。

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