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第132話
(秋哉side)
しばらくじゃれあった後、俺は緋桜を膝の間に抱えていた。
最初は嫌がってたけど、俺が離さなかったから観念したのか、今は大人しく抱えられてる。
少し前ならこんな事させてくれなかった。
そう思うと嬉しく感じた。
「……ところで、今日はなんで学校行かなかったんだ?」
緋桜にそう聞かれて『あっ』と思う。
「……緋桜に話したいことがあったんだよ」
そう言うと、凭れて俺を見上げていた緋桜が視線を逸らして俯く。
「……もしかして、緋方のこと?」
「気づいてたの?」
「……なんとなく」
俺は緋方と初めて会ったとき、違和感を覚えて佐々木に緋方のことを調べてもらった。
緋桜には『疫病神』って不名誉な異名がある。
それは緋桜の運の悪さから来るものだ。
でもそれは些細なもので、他の人より物事が少しだけスムーズに行かない程度。
でも、緋桜のその体質に便乗して緋方がそれを悪質なものに変えた。
緋方は緋桜に関わった人に嫌がらせをしたり、有りもしないことをでっち上げて緋桜から離れるように仕向けた。
その行動が緋桜を徐々に孤立させていった。
そして、緋方の最終段階。
家族からの孤立。
緋桜は実家の火事が原因で家族とも孤立した。
火事の原因は不審火だったらしいけど、その原因は今でもはっきりしてないらしい。
もしかしたら、それも緋方が関わってるかもしれない。
これが俺が佐々木に調べてもらったこと。
ここまでを緋桜に話した。
緋桜は何も言わずに、ただ黙って聞いていた。
「……薄々は感じてたけど…………俺……緋方に嫌われてたんだな」
しばらく黙ってた緋桜がそう呟いて俺にすり寄ってきた。
その声は余りにもか細くて、顔が見えないから分からないけど、泣いてるのかとさえ思った。
俺はそんな緋桜を抱き締めた。
緋方は一人になった緋桜に自分が寄り添えば……
なんて事を考えたんだろう
あまりにも歪んだ愛情。
そんな事のために緋桜を苦しめたことは許せない。
でも緋方の誤算は、高校に上がるのを期に緋桜が家から出たこと。
緋桜が緋方に『嫌われてる』と思ってること。
そして、一番の誤算は緋桜が俺と出会ったこと。
この事で緋方を咎める気はないし、これを理由に脅したりするつもりもない。
でもこれ以上緋桜を苦しめるなら、俺もそれ相応の対処はするつもりだった。
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