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第137話
(秋哉side)
俺はさっき緋桜が言ってたことを先輩たちに話した。
「秋哉くん愛されてるのね」
と宮藤先輩が顔を赤らめて『キャー』と叫びながら言う。
「いや、そこまで影響されるって……中村、秋哉のこと好きすぎだろ」
佐倉先輩が興奮気味に騒いでる宮藤先輩に向かって言う。
「でも、良い方向には向かってるみたいですね」
日向先輩は『このまま治ると良いですね』と言って微笑んだ。
結局、この後も3人は俺たちの話で盛り上がって仕事にならなかった。
俺は帰ることにして生徒会室を後にした。
いったい今、どれくらいの仕事が溜まってるんだろう。考えただけで怖い。
そんな事を考えながら、俺は緋桜のいる仮眠室に向かった。
部屋に入ってベッドを覗くと、寝かせたときの状態で緋桜が眠っている。
俺はベッドの端にそっと腰を下ろすと、眠ってる緋桜の頭を撫でた。
「緋桜、緋桜起きて」
そう声を掛けると、緋桜の目がうっすらと開く。
「……しゅ……や…?」
俺を確認すると、緋桜は目を閉じてもぞもぞと動く。
このままではまた寝ていきそうだ。
「緋桜起きて、帰ろ?」
そう言って軽く揺すると緋桜はまた目を開ける。
起き上がったはいものの、まだ寝惚けてるのか緋桜はポヤンとしていた。
寝起きの緋桜は、なんていうか無防備で可愛い。
まだ目が覚めてないのか、頭がユラユラと揺れている。
このまま俺が抱えていっても良いんだけど、学校だし、多分俺が後で怒られる。
「緋桜、帰ろ?」
俺はもう一度声を掛けてみる。
今度は反応がなくて様子を伺っていると、ポヤンとしていた緋桜が急にハッとする。
その後状況が理解出来ないのか、キョロキョロと辺りを見渡す。
俺と目が合うと、状況が理解出来たのかサァと顔色が変わって今度は慌て出す。
「ご、ごめん、俺、寝てた?」
そう言って緋桜はオロオロとし始める。
俺はそんな緋桜を見て、思わず笑ってしまった。
「…ごめん、俺仕事してない」
そう言って緋桜はしょんぼりとする。
「大丈夫だよ。俺もしてないから」
俺がそう言うと、緋桜はキョトンとする。
「……なんで?」
「先輩たちが話に盛り上がって仕事にならなかった」
そう言うと、緋桜は納得したように頷いた。
何の話で盛り上がっていたのかは緋桜には言わないでおこう。
そう思って、俺はチラッと緋桜の首筋に視線を向ける。
時間が経って薄くなってはきてるけど、緋桜の首筋にはあの時付けたキスマークが残っていた。
生徒会室を出る時に佐倉先輩に言われた。
『あ、そうそう秋哉!』
『……何ですか?』
まだ何かあるのか?
そう思っていると、先輩がニヤっと笑う。
『中村に無防備過ぎるから気を付けろって伝えておいて』
そう言いながら先輩は自分の首筋を指でトントンと叩いた。
その時は何を言ってるのか分からなかったけど、後で気付いて頭を抱えた。
「秋哉、どうかしたのか?」
先輩に言われた事を思い出してると、緋桜がそう言って覗き込んでくる。
多分緋桜はキスマークが見えてることに気付いてない。
朝からこんな状態だったとしたら緋桜のクラスの何人かは気付いてるんだろうな。
しまったな、俺が気を付けておくべきだった。
そう思いながら俺は緋桜のシャツの開いているボタンを1つだけ留めた。
そんな俺を緋桜が不思議そうに見る。
「なんでボタン閉めるんだ?」
「…ちょっと開けすぎ」
俺がそう言うと、緋桜は『そうか?』とでも言うように首を傾げた。
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