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第145話

(秋哉side) 緋桜とクレーンゲームを物色する。 景品には大小さまざまなぬいぐるみやお菓子、ストラップや腕時計とかちょっとした電化製品まである。 俺の記憶の中ではちゃっちいぬいぐるみとかくらいしか無かったような気がする。 って言っても、ゲームセンターなんて前いつ来たか記憶にないくらいだ。 そんな事を考えながら歩く。 ふと緋桜を見ると、1つのクレーンゲームの前で景品を眺めていた。 中には少し大きめの猫のぬいぐるみ。 「それやってみる?」 そう聞くと、緋桜は躊躇い出した。 「…でも俺、やったことないし」 「じゃあ、俺がやってみようかな」 そう言って機械にお金を入れた。 ………緋桜に取ってやるつもりでいたけど、よくよく考えてみれば俺もそんなにやったこと無いんだよな。 おまけに前後左右のボタンは分かるけど、回転ってなに!? とりあえず、このアームでぬいぐるみを挟めばいいんだよな? そう思ってやってみたけど、ぬいぐるみは動きすらしなかった。 「あははっ!秋哉ヘタだなぁ」 クレーンゲームに悪戦苦闘してると、いつの間にか後ろにいた佐倉先輩に笑われる。 「俺に貸してみ」 そう言って先輩は俺を押し退けて前に立つ。 お金を入れると、先輩は何の迷いもなくボタンを押してアームを動かしていく。 先輩は一回でいとも簡単に取ってしまった。 「ぬいぐるみって頭の方が重いから、バランスとってやれば簡単に取れるんだよ」 そう言いながら先輩は落ちてきたぬいぐるみを取り出す。 「はい」 先輩は取り出したぬいぐるみを緋桜に渡した。 「え?」 緋桜も手渡されたぬいぐるみをどうしていいのか分からず戸惑う。 「それあげる」 「え、でもこれ先輩が取ったやつ……」 「良いの良いの。俺、要らないし」 先輩は手をプラプラさせながらそう言ってニコッと笑う。 「良かったら貰ってよ」 先輩がそう言うと、緋桜も納得したのか猫のぬいぐるみをキュッと抱き締める。 「……ありがと、ございます」 緋桜は少し照れたように先輩にお礼を言った。 緋桜と猫のぬいぐるみ。 可愛い組み合わせだけど…… 「な?だから言っただろ、ここは持ってこいの場所だって」 先輩が俺にそう耳打ちをしてニヤっと笑う。 俺は悔しくて堪らなかった。

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